25 地上の災厄
文字数 2,582文字
転移した先は、私たちがトラップに引っかかった神官さんの家の裏手だった。
ちょうど夜だったようだが……。村が火に燃えていて、赤い炎の色と黒々とした煙の色に染まっている。
「な! これは」
「きゃあ!」
二人が驚きの声をあげた。
聖剣がするどく、
「気をつけよ! 魔族の襲撃ぞ!」
と注意をうながした。
モクモクと黒煙が立ちこめ、家々が火に焼かれている。村のあちこちで、ダークエルフたちと黒い翼と尻尾を持つ魔族や魔物が戦っている。
うん? 気配感知を広げると、村の中に予想外の人たちの気配をひろうことができた。
これはキョウコやエドワードたちね。
「あなたたち! 無事だったの?」
後ろを見ると、そこには結界を張っているファミーユがいた。結界の中には、まだ小さいダークエルフの子供たちがいる。
「早くこっちへ!」
とファミーユが叫んだその時、黒い煙の中から何かに弾かれるようにゴンドーが吹っ飛んできた。
「ぐおっ」
ゴンドーは地面を転がりながら、ちょうどヒロユキたちの目の前で止まり、すぐに立ち上がって大斧を構える。
その視線の先からは、一人の筋肉質の魔族が現れた。魔族は、ゴンドーの後ろにいる私たちやファミーユたちを見てニヤリと笑った。
「ほう。こんなところに丁度いい生け贄がたくさんいるじゃないか」
その声に、ゴンドーは、いま、気がついたように後ろを見る。
「な! ヒロユキ! コハル!」
その隙を突いて魔族が突っ込んできた。危ない!
私が飛び出そうとした瞬間、ヒロユキの手の聖剣が鞘に入ったまま飛んでいき、魔族をはじき返した。
「ぐううぅぅ」
聖剣は再びヒロユキの手に戻る。
それを見たコハルが思わず、
「すごい……」
とつぶやく。ゴンドーも目を丸くして聖剣を見たが、すぐに気を取り直して魔族の方に向きなおった。
魔族は忌々しげに剣を見て、
「なんだその剣は?」
と警戒しながらいった。
結界の中でファミーユが、「ま、まさか」とつぶやいているのが聞こえた。
……さて、状況がよくわからないけれど、あの魔族。やっちゃっていいよね?
いつものごとく、ばれないように。――爆発。
突然、爆音とともにゴンドーの正面にいた魔族が爆発に巻き込まれた。
「ぐおおおおー」
ボロボロになった魔族がそこにうずくまる。
それを見たゴンドーが驚きながら、「ダークエルフの魔法か……」とつぶやいた。
――――
「ええ! エドワードたちがきてるの?」
「お姉ちゃんも一緒なの?」
ゴンドーから話を聞いたヒロユキとコハルが驚きの声を挙げる。
ゴンドーが手短かに話してくれた内容によると、
勇者キョウコと一緒に、エドワードたちもこの魔大陸ダッコルトにやってきたらしい。
けれど、この森の近くで、魔王の四天王の待ち伏せにあって戦うも敗戦。森に逃げ込んだ。
四天王の追撃によってダークエルフの村の結界も破壊され、今、村の中でダークエルフたちと協力しながら四天王と戦っている最中というわけ。
感知能力で村の中を探る。
……なるほど。確かに大きな力を持つ魔族の反応が四つ。それと戦っている人たちは一箇所にあつまっている。これがキョウコやエドワードたちだろう。
ゴンドーは急いでみんなの所ヘ走っていった。
ファミーユが結界に入れと言っているけど、ヒロユキもコハルもそれを断った。
「俺たちも一緒に戦う!」
「それにこの剣をお姉ちゃんに届けないとね」
ファミーユが怒ったように、
「何を言ってるの! あなたたちまだ子供なのよ!」
と言うが、二人とも絶対に引き下がらない。
聖剣フラガラッハが、
「お主の気持ち、ありがたけれど、我は勇者の元へ行かねばならぬ。……そなたらは下の聖剣の間に避難するがよい」
と言うと、
「ちょ、ちょっとぉぉ――」
というファミーユの声を無視して転移させてしまった。
――――
さて、では私たちもゴンドーの後を追って、合流しましょう。
こっそりと二人に隠密の魔法をかけ、村の中に入り込んだ。
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