ミシシッピアカミミガメ脳研究所

文字数 2,457文字

 今日はあまり雪は積もっていないが、念の為に雪かきに来た。
 午前中の陽光に照らされ、グラウンドに薄く積もった雪が白く輝いている。今日は休みだから子供たちもいない。いつもは騒がしいくらいの場所がここまで静かだと、少し新鮮に思える。
 真新しい建物のグレーの壁には、「ミシシッピアカミミガメ脳研究所」と刻印された銀色のプレートが埋め込まれている。その真下、足元のあたりには定礎のやつがある。このミシシッピアカミミガメ脳研究所は、国内でも最大規模のミシシッピアカミミガメ脳研究所なのだそうだ。もちろん、ミシシッピアカミミガメの研究において、このミシシッピアカミミガメ脳研究所よりも権威のある大学や研究所は国内にも多数存在するが、それらはミシシッピアカミミガメの脳のみならず、手足や内臓、甲羅なども研究対象にしており、ミシシッピアカミミガメの脳のみを専門に研究する機関としては、このミシシッピアカミミガメ脳研究所が国内で最も大規模であるということらしい。とは言え、田舎の小学校くらいの大きさの建物だし、実際、研究所とは名ばかりで、この建物の用途のほとんどは小学校である。
 月曜日に子供達が登校してきた時に転んで怪我をしないようにと思って雪かきに来たが、自分の家の周囲と違って、ミシシッピアカミミガメ脳研究所のある地域はあまり積雪していなかった。私の自宅が長野市で、ミシシッピアカミミガメ脳研究所が埼玉県深谷市にあるからかもしれない。
 雪かきをしていると、あまり雪は多くないはずなのに、非常に非効率なことに気付いた。いくら雪をかいても、まるで水中で熊手を動かしているかのように手応えがない。棒の先端をよく見ると、20cmほどの長さのプラスチックの板が、棒に対して垂直に付いているだけだった。私は魔法を使い、棒の先端をブルドーザー状の雪かきに適した形状に変化させた。無免許ではあるが、他人に危害を加える要素がなければ黙認される。もしかすると都会では逮捕されるのかもしれないが、田舎は大らかで、その程度のことで騒ぐ人はいない。
 このミシシッピアカミミガメ脳研究所は5年ほど前に新設された新しいミシシッピアカミミガメ脳研究所で、そのためか水捌けもいいので、雪かきに時間はかからなかった。雪かきが終わるか終わらないかのタイミングで、ミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員駐車場にシルバーのインプレッサワゴンが3台入ってきた。このミシシッピアカミミガメ脳研究所ができてからずっと勤めているベテラン用務員の車だ。実際には1台だが、この用務員は他人に数を3倍に認知させる能力があり、彼の車も他人から見れば3台に見える。彼曰く生まれつきの能力らしく、ミュータント申請もしているので法的には問題ないが、初めて見た時には驚いた。車から降りた三人(実際には一人)の用務員は、「おはよう、いつも悪いね」と、三人(実際には一人)同時に挨拶してきた。私は「いえ、勝手にやってることですから」と、中央の用務員に向かって答えた。どの顔を見て話せば良いか困らないように、彼(ら)はいつも「真ん中だけでいいから。真ん中だけで」と口癖のように言うので、彼(ら)と接する時は常にそうしている。
「蠕瑚シェ鬧?虚霆翫?莉」繧上j縺ォ縲?豪縺ァ縺?>縺ァ縺吶°?」
 三人(実際には一人)同時に何かを質問したが、意味がわからなかったので無視した。三人(実際には一人)の用務員が次第に三つの黄緑色をした円柱に見える物体に変化してきたので、帰宅することにした。
 ミシシッピアカミミガメ脳研究所の駐車場に入ると、三台のインプレッサワゴンの他に、奥に黒い軽自動車が一台停まっていることに気付いた。車名はわからないが新し目の軽自動車で、なかなかスタイリッシュなハイトワゴンである。上下逆さまになって停まっていた。恐らくミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員が休日出勤しているのだろう。多分私や用務員(だった三つの黄緑色の円柱に見える物体)にも気付いていない。なぜならミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員駐車場からミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員室はとても遠く、ミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員駐車場は深谷市にある一方、ミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員室はン・アー(特定の場所を示す言葉だということはわかっているが、現在の科学では存在が確認されていない)にあるとされているからである。
 私は雪かきスコップの先端を、端の一点を中心に回転するような可動式の板に変化させた。特に意味はない。
 三台のインプレッサワゴンのうちの左側の一台に乗り込んだ。キーを持っていないので気合でエンジンをかけた。ミシシッピアカミミガメ脳研究所の駐車場から出る時に用務員(だった、今となっては三つ存在するということが辛うじて判別できるか否かという程度まで曖昧な輪郭をした、強いて言えば黄緑色の円柱に近い形状の物体)の方を見てみた。三台のインプレッサワゴンのうちの、真ん中ではない一台を勝手に動かされたことによって、用務員(だった、今となっては記憶の一部)の存在が消滅したらしい。少なくとも私の認知からは消え去った。
 ミシシッピアカミミガメ脳研究所の職員駐車場を出て県道を走っている時に、ハンドルのエンブレムがスバルではなくホンダであることに気付いた。罠だ!そう気付いた瞬間、自分が黄緑色の円柱に近い物体に変化するのを感じた。
 いつの間にか、真っ白なのか真っ黒なのか、そもそも自分が存在しているのか否かが曖昧な、空間なのかどうかも不明な場所(正確には場所かどうかも曖昧)にいた(存在しているかどうかも曖昧だが)。意識や認知、全てが曖昧だが、なんとなく、これがン・アーだな、とわかった(わかったかどうか曖昧)。そして、音声なのか他の何かなのか曖昧だが、感覚として聴覚に近い部分で知覚する何かしらで、このように聞こえた(聞こえたかどうか曖昧)。
「蠕瑚シェ鬧?虚霆翫?莉」繧上j縺ォ縲?豪縺ァ縺?>縺ァ縺吶°?」
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