The STANDARD

文字数 1,334文字

1EFM161200111



 奥田民生のギターストロークがラジオから聴こえてくる。由香の知らない曲だったが、今の気分に何となく適した心地よい曲だと思った。ラジオにヘッドフォンを刺すと、聴きながらベッドに寝転んだ。
 いまからちょうど24時間前くらいだろうか、このベッドの上に由香の隣に隆司がいたのだ。由香の10年来の付き合いである男友達で、広島から上京してからもずっと仲良くしていた。お互いの失恋や愚痴を語り合う間柄で、それ以上の関係には全くならなかった。昨日までは。
 由香は昨日、隆司と裸の関係になったこと理由を考えてみた。おそらく大した理由なんてないのだ。自分も何となくさみしかったくらいだし、向こうも少し人肌恋しかったのだろう。そのせいか最中のことはあまり良く覚えていなかった。思い出されるのは彼の手の大きさだった。思いのほか太く厚い指と掌で、彼の華奢な体型と不釣り合いな暖かな手だった。
 朝の5時ごろ目覚めた彼は、「じゃあ帰るよ」とだけ言って、朝もやの玄関から消えて行った。特に感慨のようなものは無かった。帰ってほしくないとも思わなかったし、送って行くこともしなかった。そのまま二度寝し、いつものように目を覚まし、いつも通りの土曜日を過ごした。隆司と同衾したことなど、記憶の片隅に追いやっていた。
 ぼんやりと一日を振り返り、ベッドに戻ってきた由香は隆司が眠っていた自分の左側のシーツをなぞった。彼のたくましい手のひらを思い出した。しかし思い出したところでやはり、寂しいとか、胸に思いがこみ上げるような感情は湧かなかった。だが、仲の良い友人の意外な一面を知れたのは嬉しいという感情はあった。少なくともそれだけは、些細ではあるが、暖かなものが心に宿るのを実感した。これからまた彼と夜を共にし、ゆくゆくは恋人同士として逢瀬を過ごすこともあるのかもしれない。それも悪くないなと思ったし、このまま友達のままでも構わないと思った。
 奥田民生の歌声がフェードアウトしていく。すこしとぼけたような声を聴きながら、いちいち白黒つけ無くても良いのだと由香は思った。もう大人なのだ。セックスしたからどうだ、なんて考え方は子供じみてる。のんびりと流れるままにやろう。そう、この歌のように。

The STANDARDUNICORNTSUNAMI

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