第1話

文字数 1,159文字

 この年末年始に山形県庄内地方に大雪が降った。
 関越自動車道で立ち往生が発生した2020年12月中旬の寒波では、田んぼの畦道(あぜみち)までは雪は積もらず庄内平野は碁盤の目のようであったが、今回の降雪で畦道も雪に埋まり庄内は一面の銀世界になった。
 大雪のため、全日空の羽田―庄内便はほぼ全便欠航、JR 羽越本線・奥羽本線は終日運休、陸羽西線に至っては年明け4日まで予定運休と、大雪を前にして除雪する気力もなくお手上げの状態だった。地図を眺めると、成る程、公共機関を利用して庄内に出入りすることは難しく、まさに「冬の庄内は陸の孤島」の感じがした。
 それでも地元の人達は(たくま)しい。
 1月4日~5日の一晩で新たに 45㎝の雪が積もった。早朝、雪に埋まった車を掘り起こす。先ず、屋根、ボンネットに積もった雪を落とす。今度はドアを開けるために車の周囲の屋根から落とした雪を除ける。次に、駐車場の出口まで車の通り道の雪を除けて通路を確保する。庄内では「除雪」ではなく「雪除(ゆきの)け」という言葉を使う。雪は取り除くものではなく、()けるもの(雪の場所を移す)という感じが身に沁みて分かる。
 まだ除雪されていない道路をヨロヨロと運転して、朝6時から営業している地元の温泉の朝風呂にたどり着いた。
 「雨が降っても槍が降っても朝風呂の露天風呂には必ず入る。」と豪語していた筋金入りの常連達が、普通にいたのには感動した。
 ところで大晦日には東京都の1日の新型コロナウイルス感染者数が 1,337名と過去最高を更新した。東京に隣接する県でも相次いで過去最高、またはそれに準じる多数の新規感染者を出していた。さらに増加は続き、年明けの1月7日の第2回目の緊急事態宣言発令に繋がった。
 一方、同じ日の山形県の新型コロナウイルス新規感染者数は5名だった。内訳は、山形県は村山、最上、置賜、庄内の4つの二次医療圏に分かれるが、庄内二次医療圏ではゼロだった。
 ふと思った。公共交通機関を止めて庄内を陸の孤島にした大雪は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からすれば天の恵みではなかったのかと。人の往来を止める自然のロックダウン、庄内は出羽三山に守られているのかなあと、妙に信心深くなったりした。
 感染症の感染拡大防止の大原則は、「人の行き来を止める」の意味を、身をもって体験できたような気がした。

 さて写真は、2020年2月11日 朝7時29分、羽越本線北余目駅で撮影した羽越本線上り貨物列車である。

 冬の庄内は魅力的であるが、如何せん「暗い」のには閉口する。さらに農道は未除雪で交差する踏切も冬期間は閉鎖され、容易に線路には近づけない。撮り鉄泣かせの冬なのだ。
 その冬の中、雪をものともしない機関車の力強さを撮りたいのだが、暇がない。
 トホホ…、んだ。
(2021年3月)
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