第14話 鋼鉄の列車②
文字数 3,478文字
何が起きたかと考える間もなく、砲塔内に衝撃が走った。ミカの戦車は敵戦車の放った砲弾に被弾した。それは運良く直撃を免れ、砲塔をかすめただけだった。しかし、それだけでこの衝撃、ミカは恐ろしくなった。一瞬で自分の命が終わらされてしまう。うかうかしていられない、一瞬の気の迷いが死に直結してしまう。ミカはすぐにスコープを覗いた。
「撃てー!」
ミカはがむしゃらに叫んだ。爆音と共に砲弾が発射され、それは見事に相手戦車を貫いた。
「命中!」
ミカは胸を撫で下ろした。なぜかはわからないが、美術館で出なかったはずの弾丸が出た。そして、同じ威力の火器を持つ敵戦車を殲滅できた。
「やったー!」
フォーチュンが興奮し叫んだ。しかし、ミカはまだ安心できていない。これで終わりであるはずもないからだ。ミカはハッチを開いて後方を確認した。
「来た!」
また左右から新たにカーブを描き、一本ずつ線路が増える、それと同時に一台ずつ敵戦車が合流してくる。
進行方向から見て左側を走る敵戦車が速度を上げてミカの戦車を抜き去る。
「何!」
ミカが声を上げた次の瞬間、両脇の戦車が正面に向かって機関銃を乱射しだした。
「一体、何に向かって……」
ミカが振り返ると、線路上に大きな柵のような物が進路を妨害している。
「前見て!」
フォーチュンはミカの声に反応して、砲塔をほぼ半回転させて砲塔を正面に向ける。このまま激突したらひとたまりもない。しかし、柵はもう目の前まで迫っている。今から機関銃を撃っていたのでは到底間に合わない。
「撃てー!」
すぐフォーチュンは戦車砲を発射した。砲弾に貫かれ粉々になった柵の破片がミカを襲う。それを振り払って左側を走る敵戦車に目を凝らすと、ミカの戦車に照準を合わせようと砲塔を旋回している。右後方の敵戦車も同じようにミカの戦車に向かって砲塔を旋回させている。
「まずい! 挟み討ちにされる!」
ミカは急いで砲塔内に戻りハッチを閉めた。
「十時方向!」
旋回角度の少ない前方の敵戦車を殲滅したら、すぐに後方の敵戦車に狙いを移すことにする。ミカの声にフォーチュンが素早く砲塔を左前方を走る敵戦車へ向ける。同時に照準を敵戦車に合わせた。
「撃てー!」
ミカが叫んだ瞬間、スコープの中の敵戦車が消えた。砲弾は虚しく壁に当たって弾ける。
何が起こったのかわからないでいると、今度は身体が大きく振られる。
「まさか!」
ハッチ部分に付いている小窓から外を覗くと、真ん中の線路を走っていたはずの戦車が一本右の車線を走っていた。
「レーンが変わっている!」
列車が進路を変えるために線路が切り替わるように、戦車が走る線路もランダムに車線を変更されるようになっていた。そしてまた身体が横に振られる。小窓から前方へと伸びる赤い光が横切るのが見えた。それは壁に当たり炎が上げた。後方の敵戦車が狙ってきている。
「これじゃあ、狙いが定まらないよ!」
フォーチュンが叫んだ。
「それは相手も同じよ! まずは前方の戦車を殲滅する!」
「どうやって?」
「まず、照準を合わせたらそのまま待機、レーンが変わりきったところを狙い撃ちする!」
「了解!」
その間に後方の敵戦車から撃たれてしまえば、恐らくフォーチュンもそう思っているとミカは感じていたが、フォーチュンは素直にミカに従った。
「目標、前方敵戦車!」
フォーチュンが照準が合わせる。スコープの中の敵戦車もすでに砲身をこちらに向けていた。ミカは歯を食いしばった。
すると、狙っている敵戦車が大きく横に動いた。フォーチュンは照準を合わせたまま、その動きに合わせて砲塔を動かした。照準は敵戦車にぴたりと合っていた。
「撃てー!」
発射された砲弾は見事に敵戦車を貫く。
「続いて後方敵戦車! 四時方向!」
砲塔を旋回させて後方の敵戦車へ砲身を向けようとすると、新たに二台の戦車がミカの戦車を挟むように現れた。敵戦車は三台。三台は砲塔を正面に向けて機関銃を発砲した。恐らく前方には車止めの柵がある。
「どうする!」
フォーチュンがミカに訊いた。ミカは小窓から前方を確認した。
「このまま!」
前方から柵が迫ってくる。ミカは前方を見続けていた。すると、また車線が変わる。同じように敵戦車の車線が変わり、ミカの戦車が走っていた車線に置かれた車止めに激突し、爆発した。
「五時方向! 撃てー!」
発射された砲弾が敵を貫く。
「続いて八時!」
フォーチュンがすかさずその方向に砲身を向ける。
「撃てー!」
続けざまに敵戦車を殲滅した。
「命中!」
喜びも束の間、さらに敵戦車が二台、後方から迫ってくる。
「目標、後方敵……」
言いかけたところでまた車線が変わる。車線が変わる間隔が狭まってきている。そう思っているとまた車線が切り替わる。それに翻弄されていると、敵戦車が容赦なく砲弾を撃ってくる。しかし、車線が変わり、運良く砲弾は外れた。
ほっとしている間もなく、また車線が変わる。間隔がどんどん短くなってきている。
二台の敵戦車も自分自身も目まぐるしく動く。フォーチュンはモニターを見ながら敵を捕捉しようとしてもそれが間に合わず、焦っていた。
しかし、ミカはじっとスコープを覗き続けていた。
「車線変更は隣だけ、変更ポイントは横一線……」
スコープを覗いたままミカは独り言のように呟いた。その間も敵は容赦なく撃ってくる。
「ミカ!」
フォーチュンが叫ぶ。ミカはスコープを覗いたまま返事をしない。フォーチュンの焦りは募った。
「わかった! 七時方向に向けて!」
ようやく発されるミカの命令にフォーチュンは待っていたとばかりに砲身をすぐに指示された方へと向ける。
「この方向には、何もないよ!」
「いいから!」
すると車線を変更した敵戦車がスコープの端に入ってくる。フォーチュンはすぐにそちらに照準を合わせようとする。
「まだ! そのまま!」
ミカの声にフォーチュンは慌てて旋回を止める。そうしてる間にまた車線が変わる。今狙って撃っていても、間に合わず外れていただろう。
「一、二、三。一、二、三……」
ミカは呟きながら、タイミングを図る。ミカの戦車が車線変更したあと、「三」のタイミングで敵戦車が車線を変えた。
「まだよ」ミカがフォーチュンを諭す。フォーチュンは緊張しながら、その時を待った。
「一、二、三。一、二……」
その時、スコープの中で二台の敵戦車が直線上に重なった。
「今だ! 撃てー!」
爆音が二人を包んだ。砲身から飛び出した砲弾は横回転を加えながら、赤い軌跡を一直線に描いて吸い込まれるように敵戦車へと向かっていき、二台の敵戦車を一気に貫いた。戦車二台分の爆発が暗闇を明るく照らしだした。
「イヤッホウー!」
フォーチュンが歓喜の叫び声を上げた。これにはミカも堪らず笑みが溢れてしまう。
「命中!」
ミカも高揚に任せて叫ぶ。すぐに後方の警戒に移る。三秒毎にいくらか車線変更を繰り返すが、敵戦車は現れない。車線変更し、真ん中のレーンに戻ると、それ以上車線は変わらなかった。五本あった線路が両端から左右に消えていき、三本になる。
「砲塔正面!」ミカの指示にフォーチュンが砲塔を元の位置に戻す。
やがて両隣の線路も左右に消えて、ミカの戦車が走る一本のみとなる。もう戦闘状態ではないと判断したミカはハッチを開けて上半身を外に出す。
すると、正面からトンネルが迫ってきて、戦車はそのトンネルに入っていく。
「ミカ、大変だ!」
フォーチュンの慌てた声が耳元で響く。
「何?」
ミカがマイクで訊き返す。
「道が、ない」
「えっ?」
次の瞬間、戦車は前のめりに落下していく。ジェットコースターのように、戦車は猛スピードで下り坂を降りていった。
「きゃあああ!」
ミカは叫んだ。フォーチュンも同じように叫んでいる。しかし、ミカの叫び声は恐怖だけではなく興奮も含んでいた。
戦車はなおも暗闇の中を降りていく。
「フォーウ!」
ミカは勝利の興奮から、遊園地のアトラクションでも楽しむかのように両手を広げ、風に向かって叫んだ。
ピピッ! ピピッ!
「えっ!」
突然、くぐもったアラーム音が聴こえてくる。外から強制終了しようとしている合図だ。
「嘘でしょう、なんで!」
「ミカ! 前見て!」
慌てふためくミカにフォーチュンが声をかける。ミカが前を確認すると、針の穴ほどの灯りが見えてくる。
ピピピッ! ピピピッ!
アラーム音が聴き取りやすく大きくなっている。その灯りはどんどん大きくなり、間もなく通過しようとしていた。
「間に合って!」
ピピピピッ! ピピピピッ!
「撃てー!」
ミカはがむしゃらに叫んだ。爆音と共に砲弾が発射され、それは見事に相手戦車を貫いた。
「命中!」
ミカは胸を撫で下ろした。なぜかはわからないが、美術館で出なかったはずの弾丸が出た。そして、同じ威力の火器を持つ敵戦車を殲滅できた。
「やったー!」
フォーチュンが興奮し叫んだ。しかし、ミカはまだ安心できていない。これで終わりであるはずもないからだ。ミカはハッチを開いて後方を確認した。
「来た!」
また左右から新たにカーブを描き、一本ずつ線路が増える、それと同時に一台ずつ敵戦車が合流してくる。
進行方向から見て左側を走る敵戦車が速度を上げてミカの戦車を抜き去る。
「何!」
ミカが声を上げた次の瞬間、両脇の戦車が正面に向かって機関銃を乱射しだした。
「一体、何に向かって……」
ミカが振り返ると、線路上に大きな柵のような物が進路を妨害している。
「前見て!」
フォーチュンはミカの声に反応して、砲塔をほぼ半回転させて砲塔を正面に向ける。このまま激突したらひとたまりもない。しかし、柵はもう目の前まで迫っている。今から機関銃を撃っていたのでは到底間に合わない。
「撃てー!」
すぐフォーチュンは戦車砲を発射した。砲弾に貫かれ粉々になった柵の破片がミカを襲う。それを振り払って左側を走る敵戦車に目を凝らすと、ミカの戦車に照準を合わせようと砲塔を旋回している。右後方の敵戦車も同じようにミカの戦車に向かって砲塔を旋回させている。
「まずい! 挟み討ちにされる!」
ミカは急いで砲塔内に戻りハッチを閉めた。
「十時方向!」
旋回角度の少ない前方の敵戦車を殲滅したら、すぐに後方の敵戦車に狙いを移すことにする。ミカの声にフォーチュンが素早く砲塔を左前方を走る敵戦車へ向ける。同時に照準を敵戦車に合わせた。
「撃てー!」
ミカが叫んだ瞬間、スコープの中の敵戦車が消えた。砲弾は虚しく壁に当たって弾ける。
何が起こったのかわからないでいると、今度は身体が大きく振られる。
「まさか!」
ハッチ部分に付いている小窓から外を覗くと、真ん中の線路を走っていたはずの戦車が一本右の車線を走っていた。
「レーンが変わっている!」
列車が進路を変えるために線路が切り替わるように、戦車が走る線路もランダムに車線を変更されるようになっていた。そしてまた身体が横に振られる。小窓から前方へと伸びる赤い光が横切るのが見えた。それは壁に当たり炎が上げた。後方の敵戦車が狙ってきている。
「これじゃあ、狙いが定まらないよ!」
フォーチュンが叫んだ。
「それは相手も同じよ! まずは前方の戦車を殲滅する!」
「どうやって?」
「まず、照準を合わせたらそのまま待機、レーンが変わりきったところを狙い撃ちする!」
「了解!」
その間に後方の敵戦車から撃たれてしまえば、恐らくフォーチュンもそう思っているとミカは感じていたが、フォーチュンは素直にミカに従った。
「目標、前方敵戦車!」
フォーチュンが照準が合わせる。スコープの中の敵戦車もすでに砲身をこちらに向けていた。ミカは歯を食いしばった。
すると、狙っている敵戦車が大きく横に動いた。フォーチュンは照準を合わせたまま、その動きに合わせて砲塔を動かした。照準は敵戦車にぴたりと合っていた。
「撃てー!」
発射された砲弾は見事に敵戦車を貫く。
「続いて後方敵戦車! 四時方向!」
砲塔を旋回させて後方の敵戦車へ砲身を向けようとすると、新たに二台の戦車がミカの戦車を挟むように現れた。敵戦車は三台。三台は砲塔を正面に向けて機関銃を発砲した。恐らく前方には車止めの柵がある。
「どうする!」
フォーチュンがミカに訊いた。ミカは小窓から前方を確認した。
「このまま!」
前方から柵が迫ってくる。ミカは前方を見続けていた。すると、また車線が変わる。同じように敵戦車の車線が変わり、ミカの戦車が走っていた車線に置かれた車止めに激突し、爆発した。
「五時方向! 撃てー!」
発射された砲弾が敵を貫く。
「続いて八時!」
フォーチュンがすかさずその方向に砲身を向ける。
「撃てー!」
続けざまに敵戦車を殲滅した。
「命中!」
喜びも束の間、さらに敵戦車が二台、後方から迫ってくる。
「目標、後方敵……」
言いかけたところでまた車線が変わる。車線が変わる間隔が狭まってきている。そう思っているとまた車線が切り替わる。それに翻弄されていると、敵戦車が容赦なく砲弾を撃ってくる。しかし、車線が変わり、運良く砲弾は外れた。
ほっとしている間もなく、また車線が変わる。間隔がどんどん短くなってきている。
二台の敵戦車も自分自身も目まぐるしく動く。フォーチュンはモニターを見ながら敵を捕捉しようとしてもそれが間に合わず、焦っていた。
しかし、ミカはじっとスコープを覗き続けていた。
「車線変更は隣だけ、変更ポイントは横一線……」
スコープを覗いたままミカは独り言のように呟いた。その間も敵は容赦なく撃ってくる。
「ミカ!」
フォーチュンが叫ぶ。ミカはスコープを覗いたまま返事をしない。フォーチュンの焦りは募った。
「わかった! 七時方向に向けて!」
ようやく発されるミカの命令にフォーチュンは待っていたとばかりに砲身をすぐに指示された方へと向ける。
「この方向には、何もないよ!」
「いいから!」
すると車線を変更した敵戦車がスコープの端に入ってくる。フォーチュンはすぐにそちらに照準を合わせようとする。
「まだ! そのまま!」
ミカの声にフォーチュンは慌てて旋回を止める。そうしてる間にまた車線が変わる。今狙って撃っていても、間に合わず外れていただろう。
「一、二、三。一、二、三……」
ミカは呟きながら、タイミングを図る。ミカの戦車が車線変更したあと、「三」のタイミングで敵戦車が車線を変えた。
「まだよ」ミカがフォーチュンを諭す。フォーチュンは緊張しながら、その時を待った。
「一、二、三。一、二……」
その時、スコープの中で二台の敵戦車が直線上に重なった。
「今だ! 撃てー!」
爆音が二人を包んだ。砲身から飛び出した砲弾は横回転を加えながら、赤い軌跡を一直線に描いて吸い込まれるように敵戦車へと向かっていき、二台の敵戦車を一気に貫いた。戦車二台分の爆発が暗闇を明るく照らしだした。
「イヤッホウー!」
フォーチュンが歓喜の叫び声を上げた。これにはミカも堪らず笑みが溢れてしまう。
「命中!」
ミカも高揚に任せて叫ぶ。すぐに後方の警戒に移る。三秒毎にいくらか車線変更を繰り返すが、敵戦車は現れない。車線変更し、真ん中のレーンに戻ると、それ以上車線は変わらなかった。五本あった線路が両端から左右に消えていき、三本になる。
「砲塔正面!」ミカの指示にフォーチュンが砲塔を元の位置に戻す。
やがて両隣の線路も左右に消えて、ミカの戦車が走る一本のみとなる。もう戦闘状態ではないと判断したミカはハッチを開けて上半身を外に出す。
すると、正面からトンネルが迫ってきて、戦車はそのトンネルに入っていく。
「ミカ、大変だ!」
フォーチュンの慌てた声が耳元で響く。
「何?」
ミカがマイクで訊き返す。
「道が、ない」
「えっ?」
次の瞬間、戦車は前のめりに落下していく。ジェットコースターのように、戦車は猛スピードで下り坂を降りていった。
「きゃあああ!」
ミカは叫んだ。フォーチュンも同じように叫んでいる。しかし、ミカの叫び声は恐怖だけではなく興奮も含んでいた。
戦車はなおも暗闇の中を降りていく。
「フォーウ!」
ミカは勝利の興奮から、遊園地のアトラクションでも楽しむかのように両手を広げ、風に向かって叫んだ。
ピピッ! ピピッ!
「えっ!」
突然、くぐもったアラーム音が聴こえてくる。外から強制終了しようとしている合図だ。
「嘘でしょう、なんで!」
「ミカ! 前見て!」
慌てふためくミカにフォーチュンが声をかける。ミカが前を確認すると、針の穴ほどの灯りが見えてくる。
ピピピッ! ピピピッ!
アラーム音が聴き取りやすく大きくなっている。その灯りはどんどん大きくなり、間もなく通過しようとしていた。
「間に合って!」
ピピピピッ! ピピピピッ!