新時代編

文字数 937文字

もう、7月だというのに未だに雪が降っている。季節が狂い始めたのはいつからなのだろう。
令和が始まった頃にはまだ四季があったというが本当だろうか。

先日母が亡くなった際に遺品整理をしていた時、古びた手帳を見つけた。
母がまだ20代の頃のモノだろうか。
今では紙媒体のものを手に取る機会もなく、母譲りのアンティーク好きな私は好奇心と感動を覚えた。

人工授精カプセルで産まれた私には父がいない。いまでは当たり前で、いまは自宅学校システムが導入されたが、私が小学生の時はまだ学校に通うシステムだった。クラスの半分は人工授精カプセルで誕生した子供で、片親ということになんの疑問も抱かないのだが、
母が40歳で私を誕生させた時は、人工授精カプセルが誕生し間もなかったこともあり母は随分差別を受けたと言っていたっけ。

さて、古びた手帳をめくると、細かな字で平成の時代の日記が記されていた。
懐かしい母の字と、平成の時代背景、波乱万丈だった母の半生を、私は時間も忘れて読み耽った。
知らなかった母のこと、平成元年生まれの母は平成と共に青春を駆け巡り、様々な男性と恋に落ちていた。
それはまったく別の女性の話のようで、私は彼女に共感したり、彼女を叱りたくなったり、様々な感情から今の私と同じ年齢の当時29歳彼女に会いたくなったりした。

最後のページには
よく母が語っていた忘れられない男性の話でおわっていた。男性の名前は黒く塗りつぶされていた。
母は、それ以降恋愛はしていなく、生涯結婚もしなかった。「男は懲り懲りだあなたが居ればそれでいいの、あなたは私の一部だからね」とよく笑っていた。
茶色に日焼けしたページに、水滴が落ちて自分が泣いていることに気づいた。

「今日、そうくんの家に行った。
半年ぶりに会うそうくんは、相変わらずモラトリアムとサブカルな世界で生きていて。
半年前と同じようにわたしをくそぶたと呼んだ。それが懐かしくて涙を流したら、抱きしめて、彼女ができたと言われた。そこに嫉妬心や悲しみはなかったけれど、ちょっとだけエモい感じがした。帰ったら仕事をしなければ。」

茶色に日焼けしたページをめくると
最後にこう記されていた。
「平成最後の夜に…2019.4.30」
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