詩小説『廃墟ビル屋上にて』3分で夜の街の闇。若者へ。

エピソード文字数 1,513文字

廃墟ビル、屋上にて

「繁華街と歓楽街の違い分かる?」

廃墟のビルに忍びこんで、剥き出しの屋上、フェンス越しで。

「あの川を挟んで、あっちが繁華街、そんんであっちが歓楽街」

彼女が指差すどちらの通りも、同じようにネオンで滲み、沸いていた。

「繁華街はキラキラ。歓楽街はギラギラしてるでしょ?」

「ってかさ」

「うん?」

「なんでウサギのぬいぐるみ抱いてんの?」

「こうしてたらメンヘラっぽいでしょ? ホストのキャッチとか、水商売の勧誘に遭わないの」

「なるほどなぁ」

SNSで知り合った。彼女から返ってくる一行短文DMでなんとか繋がっていた。

リアルな交流は苦手だった。まるで大縄跳びだ。割って入るタイミングが分からない。

「どっちも同じアーケードの下なのにね。群れる人間が違い過ぎる。歓楽街ではリアルをリアルに、生々しく生きてる。欲望に素直だ。繁華街ではリアルをリアルっぽく生きてない。なんとなく、ぼんやりしてるよね。口癖がこんなもんかと、まぁいっか」

「質問ばっかりでごめんなんだけど、なんでそんなに詳しいの?」

「決まってんじゃん。夜の街で生きてるから。十六で不登校、十七でメイドカフェ。十八は家出先から卒業式に行った」

「今は?」

「接客業。マッサージ師」

「意外としっかりしてんだね。資格とか取って?」

「資格なんていらないよ。客の背中にオイル塗りたぐるだけだから」

「えっ?」

「ナース服とか、体操着、園児服着てね」

「あらら」

「まぁ、時々、勘違いしてキモい要求してくる客も居るけどね。でも、偉いでしょ? 身体は売ってないよ」

「うーん。この街で独り生きてんのは偉いかも。俺が実家にこもってアニメ動画観てる最中、君は働いてるんだもんね」

「どっちが有意義に生きてるかな?」

彼女の長い黒髪は街に吹く風になびき、僕のもとへと匂いを運んだ。
そのフレームの細い眼鏡もプラスに働いている。

失礼だが、ちゃんとした女の子に見えてしまう。
こういう子に限って普通に煙草吸うんだろうなぁ。

「まぁ、どっちにせよ。この世界からはじかれたモン同士かぁ」

「はじかれたの?」

「うーん。もしからしたはじいたのかも」

「僕は、ただ、馴染めなかっただけ」

「それをはじかれたって言うのよ」

「君には居場所がある」

「居場所って、もしかして、この街?」

「違うの?」

「あなたは?」

「えっ?」

「居場所だよ」

「僕の世界は五畳の中。実家にある鍵をかけた部屋。友達は合法の薬と、安い酒」

「似たようなもんだね、私と」

「えっ?」

「認めたくないけど」

「どこらへんが?」

「火ある?」

「ひ?」

「ライターだよ」

「やっぱり煙草吸うんだ」

「ごめん、火ついたわ」

ネオンは滲んでいた。灯りをただ眺めた。
いかにも夢だとか、希望とかありそうに煌めく。
ただひとつ言えるのは、物語がある、事情がある、煩悩がある。
なんて綺麗なんだろう。

煙草の煙は浮かんで、僕等の頭の上に漂う。
ゆらゆら揺れて薄まり、誰も知らないそれへと消えてった。
火は彼女の口元で、灯るように燃えてはまた弱まる。
君の肺を汚しはするが、心まですすけてしまわないために。
まるで蛍火みたいで綺麗だ。

「私が生きれるセカイはどこなのやら」

「ここだって、あそこだって、同じセカイだ。僕等も生きてるよ。このセカイで」

「ねぇ、ファンタ青リンゴ味持ってる?」

「持ってるわけないじゃん。そんなピンポイントに」

「残念だったね。間接キス逃して」

「そうかもね……。」
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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