第九曲 パ・ド・ドゥ(グラン・アダージオ)(3) ★BGM付
文字数 1,391文字
桟橋に着いてボートをつなぎ、ふらつく足で、自転車のペダルを踏みました。途中で降りて、押して歩きました。どうしよう。
どうすればいいんだろう。
彼女の破壊力はよくわかったけれど、このばらばらになってしまった自分をどうしろと言うんだろう。なんとかつなぎ合わせて、みんなと顔を合わせなくてはならない。きついな、これ。他の人たちはどうやって乗り越えているのか知りたい。乗り越えるほどのことじゃないのかな。わからない。とりあえず、どこに自転車を停めよう。図書館の裏まで持っていってしまうと、あそこから出入りしたことがバレバレだし——
ポプラの木蔭に、小さな影が二つうずくまっていて、ぎょっとしました。
身を寄せあって、うとうとしていたようでした。同時に顔を上げ、立ちあがりました。ふたご。片方が巻き毛で、片方がまっすぐな髪だという以外は、まったく同じ顔。聖歌隊の制服ではなく、パジャマを着ています。どうしたんだ、こんなところで。寝ぼけたの? ぼくを待っていてくれたのか。
アナトリーがぼくの右手、モデストがぼくの左手を取って、嬉しそうに走り出すので、ぼくも小走りになりました。彼らが生まれたときのことを思い出しました。天使って本当にいるのだと思ったんだ。お母さまが亡くなったとき、きみたちはまだ四歳だったから、たぶん何も覚えてはいないよね。ぼくは泣いたけど、それよりきみたちのお母さんになってあげなくちゃと思ったんだ、ニコライ兄さんはそういう人じゃなかったし、妹のアレクサンドラもまだ小さかったからね。きみたちのためなら何でもしようと思ったんだよ。幸せにしてあげたかったんだ。ぼくは何を言ってるんだ。これはぼくの記憶じゃない。ぼくに兄弟姉妹はいない。ぼくは——
ふたごがそっと扉を押すと、開きました。
アレクセイ。まさか、ずっとそこで待っていてくれたの?
ふりむかなくても、もうふたごたちの気配はなくて、アレクセイが目をこすりながら、先に立ってぼくの部屋へ連れていくのでした。どの扉を開けるときも、音がしなかった。ぼくのベッドのそばに立ってアレクセイが、にっこり笑って唇に指を当て、そんなことをされなくても、ぼくは声など出なかったのだけれど、彼の指さすベッドに、一歩一歩近づきながら、たぶん、そういうことではないかと思っていた、と思っていたこと自体が、いまとなっては不思議で、
ぼくが、眠っていました。
額にうっすらと汗をかいて、浅い息をついて。ぼくは、かたわらに、そろそろと腰かけ、苦しそうにも、それでいて幸福そうにも見えるその顔を見ながら、自分はこういう顔をしているのかと、ただ、
★BGMではないのですが、今回のイメージ曲、よかったらお聴きになってください。
『白鳥の湖』より「グラン・アダージオ」
https://www.youtube.com/watch?v=0SKgGF4v8_c
名演奏で名場面なんだけどできれば映像を見ないで、音だけ聴いていただくといいかな。と思います。こほん(咳)。見ちゃうとどうしても王子さまのもっこりタイツが気になりませんか(照れ)。ぼくとは似てないけどね。似てないけど(激しく照れ)。