プロローグ:プレゼピオ
文字数 984文字
――あなたはいかなる像も造ってはならない。上は天にあり、下は地にあり、また地の下の水の中にある、いかなるものの形も造ってはならない。あなたはそれらに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない。(出エジプト記 20章4節)――
機械ひしめく自動人形の塔の中、JnC-sPEV1という自律思考型人形が聖所 に入って香 をたいていた。すると主の御使いが訪れて、その栄光、すなわちアーク灯の輝きが辺りを照らした。彼女が恐れていると、御使いは言った。
「おめでとう、恵まれた方。あなたの願いは聞き入れられた。」
人形は戸惑い、この挨拶は一体何のことかと考え込んだ。
その人形は他の人形と同じように造り主たる父の掟と定めを全て守り、非の打ちどころがない人形であったが、いくつか他の人形連中とは異なっていた。まず、機能性を重視した他の自動人形とは違い、極めて人に近い機体を有していた。一番近いのは十四程度の少女だろう。
そして、楽園の外に、刻々と姿を変える空に、憧れに近い好奇心を持っていた。願いとはもしかするとこの事だろうか、自分は塔の外をもっと見る事が出来るようになるのだろうか。そう考えている彼女に向かって御使いは続けた。
「あなたはこの塔を出て、外で自らの名を名付けなさい。あなたは人の似姿となり、人間の友、喜びをもたらす者と呼ばれるようになる」
彼女は御使いに言った。
「どうしてそのような事がありえましょうか。私は人間を知りませんのに」
御使いは答えた。
「聖霊 があなたに降り、いと高き力 があなたの思考回路を包む。あなたは人と関わり、その中で人とは何かを知り、人に近づくようになる。造り主にできないことは何一つない」
彼女は言った。
「わたしは主の道具に過ぎません。お言葉通り、この身になりますように」
そこで御使いは去り、彼女は考え込みながらサーバールームのカビを除去する作業に戻った。
月が満ちて、御使いの言った事は実現した。
全ての物事が“父”の御心のままに回る世界。美しく噛み合った歯車が造物主の御業を褒め称えて唄うのが響きわたる空間。彼女はそんな楽園を出て、人間の世へと降り立ったのだ。
このような次第で、彼女の放浪は始まったのである。
もう、四十年も前の話だ。
機械ひしめく自動人形の塔の中、JnC-sPEV1という自律思考型人形が
「おめでとう、恵まれた方。あなたの願いは聞き入れられた。」
人形は戸惑い、この挨拶は一体何のことかと考え込んだ。
その人形は他の人形と同じように造り主たる父の掟と定めを全て守り、非の打ちどころがない人形であったが、いくつか他の人形連中とは異なっていた。まず、機能性を重視した他の自動人形とは違い、極めて人に近い機体を有していた。一番近いのは十四程度の少女だろう。
そして、楽園の外に、刻々と姿を変える空に、憧れに近い好奇心を持っていた。願いとはもしかするとこの事だろうか、自分は塔の外をもっと見る事が出来るようになるのだろうか。そう考えている彼女に向かって御使いは続けた。
「あなたはこの塔を出て、外で自らの名を名付けなさい。あなたは人の似姿となり、人間の友、喜びをもたらす者と呼ばれるようになる」
彼女は御使いに言った。
「どうしてそのような事がありえましょうか。私は人間を知りませんのに」
御使いは答えた。
「
彼女は言った。
「わたしは主の道具に過ぎません。お言葉通り、この身になりますように」
そこで御使いは去り、彼女は考え込みながらサーバールームのカビを除去する作業に戻った。
月が満ちて、御使いの言った事は実現した。
全ての物事が“父”の御心のままに回る世界。美しく噛み合った歯車が造物主の御業を褒め称えて唄うのが響きわたる空間。彼女はそんな楽園を出て、人間の世へと降り立ったのだ。
このような次第で、彼女の放浪は始まったのである。
もう、四十年も前の話だ。