第4話   五年ぶりの再会

エピソード文字数 5,461文字

 ※

 

 次の日。今日からが本当の高校生活だ。


 昨日と同じように凛と一緒に登校し、途中で別れる際には「頑張れよ」と声を掛ける。

 と、ここまでは同じだったが、学校に向かいながら、今の状況にじわじわと喜びを感じていた。


 男として人目を気にせず堂々と歩いている。


 それが妙に嬉しかったりするのだ。




 教室に入ると、前の席の染谷くんに挨拶を交わすと普通に喋り出した。


 この点も非常に大きい。男として普通に喋れる事に。



 話題は当然、男同士の会話であり趣味だって話しやすい。スポーツや、ソシャゲー。そして異性への話など、気兼ねなく話せるのだ。




 中学時代は楓蓮として生活していた為、女メインでの話になっていたからな。

 その時はその時でつらかったものがあった。



 趣味だって基本的に合わないので話せないし、ファッションやら乙女ゲーの話をされても愛想笑いしていたし。極めつけは異性の話だけはマジで勘弁して欲しかった。



 男でもある俺に、ジャニーっぽい話やら、野球部の先輩超好きとか言われても、顔が引きつるだけである。



 それでも話題を合わせようと見たくもない番組やアニメを見ていたのが懐かしく思う。

 その経験からある程度女とも会話を合わせられるスキルが身についちまっているが。




 と言う訳で染谷くんや近くの席にいる西部くんと話していると、非常に和む。


 無理に話を合わせなくていい。それがこんなに楽だったとは思わなかった。

 あぁ、やっぱり俺は男なのだとつくづく思う。
 




  そして休憩時間に他の生徒とコミニュケーションを取った結果、染谷くんや西部くんのラインを教えてもらった。


 更には白竹さんのラインまで教えてもらうという、素晴らしい成果を上げていた。


 

 まさか。あの超絶可愛い白竹さんのラインを教えてもらうとは思わなかった。まぁ俺が教えてくれと頼んだのではなく染谷くんのお陰である。




 彼は見た目通りというか、かなり社交的であり、男子女子関わらず話すのが上手かった。

 俺と白竹さんと染谷君の三人は、遠方から来た繋がりという事で他の生徒には内緒でラインを交換したのだ。



 こればかりは白竹さんも断れないと言うか……染谷くんが上手く聞き出した感じである。




 西部くんには悪いが勘弁して欲しい。
 白竹さんのラインを獲得すべく、果敢に挑む姿を見ていると心が痛むのであった。



 さて、その白竹さんなのだが……



 予想通り、同じクラスの男子から声を掛けられまくっていた。

 休憩時間にやってくる男子生徒の攻撃にも、白竹さんはラインや連絡先を教える事はしない。



 やはりガードは固いというか、知らない人間にやたら滅多ら教える訳にはいかないだろう。


「な、内緒ですよ」

「勿論っす!」
「く、くりょ、黒澤君も」
「分かってます」


 遠方組の内緒のお話。役得感が半端無い。


 えへへと笑った白竹さんに、染谷君も 顔が赤くなる始末である。
 凛といい染谷くんといい、白竹さんの笑顔の対応に困ってるようだな。



 しかし染谷くん。彼女はそれだけじゃないぜ。



 フリフリメイド装備の白竹さんは、更に凶悪な魅力を兼ね備えており、一目惚れのクリティカル要素も持ってるから始末におえないぞ。


  こんな事で顔が赤くなるようでは、本気を出した彼女を見たら、マジで卒倒するんじゃないか?




 じゃあ俺は白竹さんに興味ないのか? 惚れないのか?


 と思うかも知れないが、それは「無い」と断言させていただく。


 あっ。別に強がっている訳でもなく、俺の女バージョンでも勝てないとか、捻くれている訳でもないので分かって欲しい。



 まず俺には人と付き合おうという、そんな気持ちが存在しないのだ。


 見た目がどれだけ素晴らしくても、俺には人を好きになるなど出来ない。初っ端からそう思っている。





 ずっと昔からだった。

 その理由は勿論、入れ替わり体質であるということ。



 もし仮に、白竹さんとお付き合いする事になったとしよう。当然付き合いだしたら、最終的には入れ替わり人間である事を伝えなければならないだろ?


 
 そうなると100%ドン引きされるのは間違いないし、黒澤家の秘密が万が一外部に漏れてしまう可能性がある。これが一番怖いのだ。



 もし破局したりして、ぽろっと世間に漏れてしまえば、最悪変な研究所に捕縛される可能性だってある。

 

 これは親父が非常に恐れている事であり、一家の危機へと繋がる。下手をすればこの街から引越しせざるを得なくなるのだ。



 そんな生活を送っている内に俺は、人を好きになり付き合いたい、結婚したいという願望が無くなってしまっていた。



 俺には恋愛は無理なのだ。この先もずっとそうなのだろう。

 この入れ替わり体質と引き換えに、恋愛感情など芽生えない。そう決めつけていた。




 なので白竹さんがどれほど綺麗で可愛くても、そんな気持ちは一切芽生えてこない。

 目の保養。ただの友達。あわよくば親友みたいな付き合いはしてみたい。そこまでの関係しか求めていない。




 いや。求めてはならないと言った方が正しいのだろう。


 高校生活は順調。これでいい。これ以上は求めない。


 俺はただ、友達と仲良くやって、楽しければそれで良いのだ。




 
 そう思っていた二日目の昼休憩が終わる。



 そして午後の授業に移るわけだが、そこまで平和だった状況は、一気に暗転し、混沌とした世界に舞い戻ってしまうなんて思いもしなかった。




 ※




 午後の授業はこのクラスの担任だった。
 初日も思っていたが、やる気ゼロだこいつ。



 何でそんなにつまらない顔をしているのだろうか。何か楽しみは無いのかななどと思っていると、淡々と喋り始める。



「昨日に登校できなかった生徒を紹介する」と言うのだ。



 一応クラスでも噂になってたからな。
 俺の横の席には、誰も座っていない机があったので、誰か座るようになっているのは安易に予想できた。



 そして俺は、男女関わらず思い切って声を掛けようと計画していた。
 と言うのも、向こうからすれば一日のビハインドがある。



 ここは一番近い場所にいる俺が優しく接する事で、友好関係が築きやすいのではないかと思ったのだ。



  染谷君のように上手く喋れたらいいが、気合を入れてイッツトライ。挑戦してみようと、そう意気込んでいた。



「美神聖奈(みかみせいな)さん。入って」

 え?
 み、みかみ? え?




 入ってくる生徒は女子生徒である。


  これまた黒髪のロングヘア美人なのはすぐに分かった。教室に入るなり男子生徒が思わず「おぉ~」っと声を揃えるほどの美少女と言っても過言ではない。





 じゃなくって! そんな事はどうでもいいんだ!



 せ、せいな?
 聖奈なのか……? 嘘だろ?

「えっと、美神聖奈です。昨日はちょっと用事があって出れなくてすみません。中学は海外に住んでましたが、地元はN県。よろしくお願いします」

……聖奈だ。間違いない。
「美神さんは、一番後ろの空いてる席ね」

 教師に一度頭を下げる彼女は、言われるままこちらに向かって来る。
 俺はその様子をアホ口を開けたままじっと見つめてしまっていた。

 ショックすぎて開いた口が塞がらない。



 確か……あいつを最後に見たのは小学校四年の頃だったが、過去の記憶と一致する面影が僅かに残っていた。あの頃よりも髪が伸びてて、やたら大人びて見える。




 あの聖奈が……
 白竹さんとはまた違う系統に突き抜けた美人になっちまうとは……じゃなくって美人とか外見とか、どうでもいいんだって!




 ってか何でお前が……
 嘘だろ? 何でお前が……この学校に来るんだよ!



「よろしく」
「よ、よろしく」
 半ば顔を引きつらせながら返事を返していた。
 そして初めて目が合うと、薄っすら笑顔で返されてしまう。
(うあっ……し、死ぬ)
 そんな聖奈を見た時、思わず息を飲み込み絶句していた。
 こいつの笑顔を見るだけで心底恐怖を感じてしまう。



 聖奈が俺を見てが笑う時、必ず不幸が訪れる前兆。
 それはもう昔からのトラウマなのである。



 完全に思考停止した俺をよそに、前の席の染谷君がこちらに振り向くと、こんな事を言ってくるのだ。


「黒澤君。N県ってもしかして一緒なんじゃない? 美神さん。彼も同じN県から来たそうですよ」
ちょ! 待て! 染谷君!
こ、こいつに気軽に話しちゃダメだ! く、食い殺されるぞ!
「そうなんですか?」と聖奈。
「ま、まぁ……そ、そうです」
こう言うしかないし、ってかお前知ってるだろ!
とは突っ込めなかった。
「僕は染谷と言います。そんで隣の子が白竹さん。みんな遠方から来たんですよ。よろしくね美神さん」
「美神さん。仲良くしましゅ、しましょうね」
「うん。こちらこそ。よろしくね」
 あああっ……お、俺の理想とする高校生活が音も立てずに崩壊していく様が見えるようだ。


 やばい。やばすぎる。このままじゃこいつに全てを叩き潰されてしまう。



 そんな未来が見える。見えすぎて困る!

「授業を始めるぞ」

 と、ここで担任が授業を始めだしたので、俺はようやくクールダウンし始める。とにかく冷静になって対抗策を考えなければ。


 

 

 俺の知る聖奈とは……

 普通に挨拶できる人間ではなく、社交辞令など頭からすっぽ抜けたような乱暴者であった。



 俺や凛がまだ小さい頃、奴隷のように扱われた思い出があり、引っ張りまわされた思い出しか残ってねぇ。こいつが俺にやった悪事は数知れず、つまり聖奈は俺に多数のトラウマを作ってくれたいじめっ子なのだ。



 

 何よりも俺が一番恐れているのは……


 黒澤家の入れ替わり体質を知っているという事であり、こいつが暴露すればいとも簡単にこの高校生活が終わる可能性がある。

 

 こりゃまずい。家に帰って家族会議を開くレベルである。

 一家存亡の危機である。

 

 

 まさか……よりによって聖奈がこの学校に来るなんて。

 しかも隣の席に座るとか、どこかのアニメの糞展開じゃねぇか!


 やばい。こ、こいつをどうにかしないと!

 俺の高校生活が。輝かしい未来が。遥か遠くに逝っちまう!




 ※


 午後からの授業は上の空だった。

 隣に聖奈がいる事で、授業の内容は右から入って左から抜けていく。こいつに虐められていたのはもう五年も前になるのに、未だに恐怖を感じるとは思わなかった。

 

 放課後のHRが終わると、俺は教室から一目散に飛び出していた。その理由は当然このまま聖奈と接触するのはあまりにも無謀。そして超危険だと脳内が訴えてやがる。



 染谷君がラインで「どうしたの?」と心配してくれるが「ちょっと調子が悪くて」と送りつつも全速力で校門を潜り、全速力で走る。調子が悪そうに振舞う事も忘れ、とにかくアイツから逃げ出したかったのだ。





 家に帰ると昨日と同じように凛が出迎えてくれるが、俺の様子が変だったのを悟ると、早速理由を話した。

 凛も聖奈をよく知る人間の一人なのだが、なぜかあまり驚いていなかった。

「聖奈お姉ちゃんもいるの? へぇ~~~。懐かしいなぁ」
 あっけらかんとした返事に拍子抜けしてしまう。


 ってかお前も俺と一緒に色々とされてたぞ。つまらんイジメから、性的な嫌がらせまで、そりゃもう数え上げりゃキリがない程にな。 



 しかし凛に一通り話すと、俺の予想を軽く裏切ってくれた。

「でもお兄ちゃん。聖奈お姉ちゃんも高校生なら、そんな事するのかな?」

「ま、まぁ確かに……」

確かに高校にもなって男が女に虐められるのは……どうなんだろうか。
「それに今のお兄ちゃんは強いんだから、虐められたら虐め返せばいいんじゃない?」
「い、いや。そこまではしないけどさ」
「大丈夫だよ。それに聖奈お姉ちゃんは、お兄ちゃん好きだったじゃん」
「そりゃ違う。全然違うから。あいつはな、俺の恐怖する顔を見て喜ぶ変態野郎なんだって!」
俺が必死に訴えるが、凛はあまり分かってなさそうだ。
「う~ん。でも。お兄ちゃんにはもう……そんな事しないと思うけどなぁ。何かされたの?」 

 あっ……そう言えば自己紹介の後は、俺に対し何のアクションも起こさなかったし、むしろお前の事など知らぬというか、他人のように無視だった。




 

 もしかして――

 あまり気にしなくてもいいのだろうか?

「でもアイツは俺達の秘密を知る奴だぞ? 親父にも一応言わないと」
「聖奈お姉ちゃんはきっと言わないよ。だってずっと……僕達の事秘密にしてくれたじゃない? 平八(へいはち)叔父さんだってそうだったし」

 小さい頃であっても、あいつは俺達の秘密は守ってくれてたし……

 それはそうなんだが……

「ちゃんとお話してみればどう?」
「そ、そうだな」 
 まさか凛に諭されるとは思わなかった。さっきまで一家存亡の危機だと思っていた俺が馬鹿みたいである。よくよく考えると、凛の言う通りあまり気にしなくていいかもしれない。




 とりあえず。聖奈がこちらに対し、何らかのアクションを起こしてから考えればいいんじゃねぇ? 



 そうだ。そうしよう。ってかそうするしかねぇ。

 まぁいいか。その話はまた学校に行く時に考えりゃいい。


――――――――――――――――――――――

 ★ 美神 聖奈 (みかみ せいな)


 蓮とは幼馴染。小学四年生まで一緒の学校に通っていました。

 黒澤家の入れ替わり体質を知る人物。ですが…… 


 ☆容姿端麗

 ☆成績優秀

 ☆運動神経抜群 

 ☆昔は蓮のいじめっこ


 二人目の主人公。序盤は短編が多めですが、二部の終盤にかけては長編多め。

 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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