第15話 五郎をどうやって止める?

エピソード文字数 1,505文字

 帰宅すると、トメが(くりや)に入り、
「おチビちゃんたちに、ご飯をあげなくちゃ」
 と相変わらずの(てい)である。八っつあんは、畳の上であぐらをかき、ご隠居にこぼした。
「これからどうやって五郎を食い止める?」
「そもそも、おまえさんがあやかしを呼んだのだろう。どうやって呼んだのか思い出したら、なんとかなるんじゃないのかの」

 ご隠居のセリフは、どことなく抹香くさい。
「だけどよ、相手は陰陽師だよ。あやかしとは相性が悪すぎらぁ」
 八っつあんは、心が張り裂けそうな気がした。頼りにしていた妖怪は、死んでしまったのだ。自分のために、命を投げ出したのだ。いままで平気な気持ちで、とてつもなくノンキにやってきたけれど、思えば妖怪には、なんのお礼もしていない。鰹節をやったのはトメだ。

 なのにあいつらと来たら……、壺や掛け軸を直してくれた。あっしらに希望を与えてくれた。あの可愛らしさといったら! あれが化物だとは思えない。思いたくない。仮に化物だとしても、いい化物だ。決まってる。
 うしなって、はじめてわかるものがある。

 猫又の夫婦がやってきたときは、驚きのほうが先に来ていた。そして、怒濤のように事件が起きて、あいつらのことを考えてやる暇はなかった。
 今、振り返ってみるにつれ、白猫のツンとすました顔や、黒猫の愛嬌のあるしぐさなどが、たまらなく懐かしい。鰹節をねだる時の甘えた声、すり寄ってくる毛皮の暖かさ。
 それがすべて、いなくなってしまったのだ。よりによって、子どもを産んだその次の瞬間に。
 なんてヤツだ。妖怪のひとりやふたり、見逃してくれてもいいではないか。それが、粉々にするなんて、人間じゃない。

 ふつふつと、怒りがわいてきた。しかし、八っつあんにはどうすることも出来ない。そもそも、どうしてあのあやかしが、自分たちのもとへやってきたのかもわからないのである。
 八っつあんは、立ち上がった。ウロウロ、熊のように歩き回りはじめる。考えることは苦手だし、苦手なことは避けてきた人間だったが、ここまで追い込まれたらやる気がなくてもやらざるをえない。

「五郎のヤツ、必ずまたやってくるに決まってらぁ」
 八っつあんは、大声で独り言をつぶやいた。
「トクトクとした顔してよ、どうかご退場願いませんか、とバカ丁寧に言いやがるに決まってるサ。あいつの顔、ひんむいてやりてえ」

 考えれば考えるほど、頭がカッカしてくる。おまけにトメは、五郎のことを三太だと思い込んでいるのだ。あの菅原って男も、どうかしてる。きっと妖怪に恨みでもあるのだろう。あんなに冷たい仕打ちをするなんて、陰陽師というのは人間の血が流れていないに違いない。

 近いうちに、追い出されてしまう。数刻以内だろう。そうなるまえに、なんとか手を打たねばならない。
 どうすればいいんだ。
 八っつあんは、となりのご隠居を振り返った。ご隠居は、キセルを吹いてボーッとしている。
「ご隠居。あやかしが、死んでしまいやした」
「そうじゃのぉ」
「あやかしは、いまは、影も形もありやせんです」
「そうじゃのぉ」
「どうすりゃいいんですか。このままボーッとしていたら、あいつらの思うつぼでやんすよ?」

「そもそもあやかしたちがここへ来たのがなぜなのか、それがわかればなんとかなるかも――」
 小鳥遊が、口を挟んだ。八っつあんは、頭を振った。
「たいした話じゃねーんで。ただ、近所の猫又神社にお参りして、助けて下せえってお願えしたんでさ。お礼にマタタビをあげるって……」
 ご隠居と小鳥遊は、同時にぽんと膝を打った。
「それだ!」
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