第49話  まゆちんとさおりん

エピソード文字数 3,595文字

 ※


 四月も既に三週目に入る。

 

 高校での生活も、アルバイトにも慣れてきた。そんなタイミングで学校では明日、学力テストがあるらしい。



 ちなみに俺の学力は、中の上くらいだと思う。

 良くもないが悪くもない成績だと思う。



 勉強だけはちゃんとしろ。親父はいつもそう言ってたからな。特に塾やら家庭教師やらを頼らずにこの成績は結構良い方じゃないだろうか。 



 と言う訳で。クラスの話題はテストの話で盛り上がっていた。

私は全然大丈夫。それよりもアンタの方が心配だわっ

 普通に返してくる聖奈。まぁこいつは問題無さそうだな。

 それはいいのだが……

じゃあちょっと寝るから。また昼過ぎに起こしてよ

 どういう訳か、最近はやたら学校で寝るんだよな。

 一体家でどんな暮らしをしているのか知らないが、寝すぎだろ。


 しかも授業中でも平気で寝てるので、教師としては睨まれる対象だったりする。


 だが、当てられてもパッと黒板を見ただけで即答するので、教師とて何も言えないのだった。

染谷くんは? テスト大丈夫そう?
うん。こう見えても、結構自信あるんだ

 そうなのか。第一印象ではあまり……

 いや、失礼なことを考えてしまった。


 こればかりはテストの結果が出てから分かるだろうし、本人の様子も楽勝って感じだが。本当なのだろうか。



 そして……白竹さんはというと。

くりょ澤くんは? 大丈夫そおですか?
何とか赤点取らないように頑張りますよ
ああうう……

 何だかすげー不安顔になってるんだけど、大丈夫ですかね?


 見た感じは結構真面目に授業受けてる白竹さん。

 だが当てられても分からない事が多く、隣の染谷くんや、後ろの席から俺や聖奈が小声で援護してるからな。



 知り合ってから三週間。ぶっちゃけ白竹さんの学力はヤバイ。

 それはクラス中の人間がそう思っているだろう。


 

なぁ黒澤。染谷。お前らはテスト余裕なのか?

 西部が割り込んでくるのは最早定番であった。

 

そーいうお前はどうなの?
そう返すと、自信満々に「ない」と答えた。
まぁ別に補習でもいいかな。頭悪いんだからしょーがねーよな

 ん? そこは否定せずに同意だと?


 なにかがおかしい。そう思ったら、こいつの視線を見て一発で理解した。



 ちらちらと白竹さんを見る西部。

 つまり、補習になれば白竹さんと一緒になれるとでも思っているのだろうか。


 こいつマジで阿呆だな。



 


 そんなこんなで休憩が終わると次の授業が始まる。



 授業開始してから十分ほどで、隣の席から聖奈の寝息が聞こえてくる。


 


う、ん~~ん
 なぁ 聖奈? マジ寝するのは構わんが……

 こっちに顔向けて寝るのは止めてほしい。


 思いっきり無防備な顔を見せられると、授業にならないんだよ。 


 ※


 聖奈が就寝した後の休憩時間は、廊下に出てから話すようになっていた。周囲の人間も気を使っているのか、その周りに人はいなくなる。

 

 その中、白竹さんだけが教科書を見たりの勉強中である。

 明日のテストに危機感を感じているのだろう。



 さて。俺と染谷くんが廊下で喋っていると、魔樹がやってきた。

 何気に教室の中にいるねーちゃんを一目見てから口を開く。 

染谷。ちょっといい?
どした? 俺?

えっと。これどうぞ。

君に渡してって、女の子から頼まれたんだけど。


まぁ頼まれたっていうよりも、僕の机に勝手に置かれてたんだけどね。

 魔樹が手渡したのは手紙っぽいな。

 染谷くんは「なにこれ」と言いながら手紙を開こうとすると、魔樹が止めに入る

それは一人の時に見たほうがいいよ。大勢の前で見るものじゃない内容だと思うから

 魔樹のジトっとした目はデフォルトだが、染谷くんは「マジ?」と漏らすと「マジ」と返す魔樹だった。


 それは……もしかして。

 染谷くんに手紙で告白するとか、そんな類なのか?

ふぅ……参ったな……

 溜息を漏らす染谷くんだった。そして手紙の中身を自分だけちらっと見ると「ちょっと行ってみる」と言い残し行ってしまった。


 当然魔樹と俺が取り残されると、一応聞いてみた。

その読みで間違いないと思う。

ほら。前に体力テストで結構目立ってたから

それはお前にも言えることだろ?
お陰で僕にもこう言った手紙が来るようになってね。黒澤は来てないの?
きませんけど
あれ? 何だかすげー負けてる気分になるんだが。
まぁ君は美神さんと付き合ってるって思われてそうだし
こらこら。何を言い出すんだお前は
くくっ……

 こいつは俺を苛立たせるのが好きなのだろうか。

 俺がむくれると、その顔を見て微笑を浮かべるからな。

まぁそういうことだから。じゃあね

 染谷くんの用件だけ済ますと、さっさと教室に入っていく魔樹であった。




 一人で廊下でいてもしょうがないので、俺は自分の教室に戻ろうとすると――

 背後から俺の名前を呼ぶ奴がいた。


 それだけなら別に問題は無いのだが……その声は女子生徒の声だったのだ。


黒澤。黒澤っ!

 だ、誰?

 振り向いても誰もいないというか……

こっち!

 声がする方向に向き直ると……あれは同じクラスの米山さん? それと坂田さんじゃないか。

 階段付近の壁から顔だけ出てるし。ぱっと見じゃ分からなかったぞ。

早くっ!
 まさか……俺にもそういう人が現れたのか?


 

 などと思いながら二人の元へ駆け寄ると、後ろにいる坂田さんはふにゃけた顔で「こんにちわ~」と挨拶してくるので、俺も普通に挨拶していた。



 そして、俺をマジ顔で迫ってくるのは米山さんだ。


 確か西部の隣の女の子でしたっけ。

 彼と結構言い合いになったり激しそうな人だな、とは思ってます。ちなみにバスケ部。


ねぇ黒澤。一つ頼んでいい?

 え? 頼まれることなの?

 米山さんはそう言うと、急に顔を赤らめるのだ。

ごーごー! まゆちん! ファイトだみょ~


軍隊風にいうと、ごっごっごっごっごっ!

ちょっと沙織! 黒澤じゃないわよっ!

 え? え? なんだ。何が起こるんだ?


 俺じゃない? 何のこと? 

 どうリアクションをしていいか分からなかったが……あっという間に解決した。

白竹さんの弟さん。仲がいいんでしょ?


あの……私にも紹介して欲しいんだけど……

なに~~? まゆちん。ぜんっぜん聞こえてないみょ~!

そ~いうのを、蚊の鳴く声っていうよね?


あの。黒澤! 白竹さんの……魔樹くん。

私に紹介して……欲しいんだけど

 うわっ。すっげー顔が赤いんですけど。

 短めのポニテを左右に振ってらっしゃいます。


 

尚、黒澤に拒否権はない模様。といわけで。お願いっ
それはつまり……そういうことですか?
そういうことだよ~~
お願い! 魔樹くんって……黒澤や染谷くんしか喋ってる所見た事ないし
そして魔樹くんって女子生徒の間では、魔樹王子って呼ばれるほど人気があるといふ……

 魔樹王子? ふ、ふはは。

 おっと危ない。笑いそうになったが必死に堪える。


 ということは……米山さんは魔樹を友達として紹介しろって事を言いにきたのだな。

分かったよ。魔樹にそれとなく言ってみます
ありがとぉ! 黒澤っ!

 すると米山さんは急に俺の両手を持つと、ブンブンしてくるのだった。

 

 急に手を持たれたので焦ったが、よほど嬉しいのか、その手にはとても力が込められていた。

あ、この事は内緒にしてね。

こんな事が他の子に知れたら……ややこしくなるから

黒澤。王子を狙う女子はいっぱいいるからね~。

だから秘密のトップシークレットでお願いっ。


その代わり。黒澤も私達の仲間に入れてあげてしんぜましょう。

分かりました。っつーか誰にも言わないし大丈夫ですよ

 俺とこうやって喋っている間にも、二人は周囲の人間を滅茶苦茶警戒していたからな。

 

 

良かったね~まゆちん。ここからは綿密に作戦と立てないとねっ

ちょっとぉ! そんな風に言わないで!

と、とにかく! そ、そ、そ、そういうことだからよろしく~~!

さんく~~す黒澤。まったねぇ~


 ふにゃけた顔のままの坂田さん。この人はいつもこんな感じだよな。


 そんな彼女を米山さんが引っ張っていく。

イケメンゲットだぜ。ふぉ~~!
もうっ! うるさい!

まゆちん! さおりんはおんぶをご所望じゃ

ちょっと! 勝手にへばりつかないでよっ!

ほれ。どうどう。暴れるでないぞっ。


 あの二人は本当に仲がいいよな。

 坂田さんはいつも米山さんの背中に乗ってるイメージがするぜ。

 


 まぁ俺が仰せつかったのは、魔樹に紹介するだけである。

 それ以外は協力は出来ないですよ。

 

 しかし……魔樹王子か。上手い事いいやがるぜ。

 確かに、あいつには欠点とか無さそうだし。女子生徒がそう言うのも納得出来る。


 そこまではいいのだが……


 乙女ゲーのキャラソン歌ったり、クネクネしたり、女の子喋りになったり……

 二重人格だって言い張る奴なんだけど。


 まぁいっか。魔樹王子の七不思議は、自分で見て、そして判断してください。

 

――――――――――――――――


次回 入れ替わり体質の欠点 1


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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