第21話:巨大台風の弱体化作戦7

文字数 1,149文字

ウイログビ
「60年代観測機に乗る志願者を探していた。思慮分別より知識欲を優先するような若い士官。私はすごく興味をそそられて6ヶ月後にはフィリピン海で台風オルガに向かっていた。ものすごく揺れた。シートベルトを締めていても飛ばされて、計器版にぶつかるほどだった。今なら中位の乱気流の中を飛んでもパイロットに身体的な緊張を強いることはないし、当時ほど筋肉が強くなくても大丈夫。精神的にも楽」
 
 今も台風の観測はコンピューターを満載したC130で行っている。乗組員も高度な飛行訓練を受け大学レベルの知識を持つ空軍のスペシャリスト。乗組員「強い台風のアイウォール『目の壁』の中を飛ぶと、あらゆる揺れに遭遇する。目の中に飛び出すと太陽が眩しくてしばらくは何も見えない。でも目が慣れると巨大な大聖堂かスタジアムの中にいるような感じがしてすごく感動する」。アイリーン・ダイエマ大尉はアイウォール「目の壁」の中を飛ぶ際のナビゲーションを担当している。また彼女は機体のセンサーが観測した全てのデータを送信する重要な役割を担っている。データは衛星経由でマイアミの台風センターにいるリチャード・ナブのチームに送られる。

ナブ
「衛星データに観測機のデータが積みあがって、さらに地上観測のデータも加わりコンピューター気象モデルで計算した予測情報をどっと吐き出す」。観測機は台風上空を2時間半飛行する。合計で数100万ドルもする観測機器を使って台風の今後の予測進路について詳細な情報を集める。驚くことに、これだけ費用と時間をかけて集めた情報は、ただ人に避難を呼びかけるために使われている。

ウイログビ
「私達の社会やインフラをもっと耐久性の高いものにするために、緻密な努力が必要。頑丈な家を建てるとか開発に適さない海岸線はそのまま自然公園にしておくべき。高潮が押し寄せるのは元々そういう地形のところだからだ」。カトリーナの傷跡を見ても陸軍工兵隊はニューオリンズを次のカトリーナクラスの台風から守れない。完全な復興と対策には数10億ドルの費用と4年の歳月がかかると言われている。ウイリアム・グレイはアメリカの台風対策の長老で彼は気象予報のパイオニアでもある。彼は台風を止めるためにあらゆる理論を検討し、確実な方法を1つ選んだ。

グレイ
「炭素の微粉末がベストだと思う。これなら実現可能。台風が海岸線まで2日ぐらいの距離まで近づいたことを確認したら、船団を送って台風を取り巻く。船は軍用船でも商船でもかまわない。船には石油の燃焼装置を積む。この装置は酸欠状態でも燃やし続けられるので不完全燃焼になり大量のススがでる。このスス、つまり炭素の微粒子で台風を取り巻く」。こうしてできた炭素のモヤが台風の外側の雲を熱して膨らませ、渦をほどいてしまう。
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