落ちこぼれ先生

文字数 1,500文字

 さて、ここに一人の天の子どもがいます。

 地上の世界の学校で、せっせと勉強しています。
 もうすぐ卒業試験があるのです。

 彼はあまり勉強が得意ではありません。
 落第寸前の彼は、もう一人の落ちこぼれの生徒と今日も学校に居残りです。
 怖い先生にびくびく教わりながら、何とか卒業しようとがんばっています。

「まったく! おまえの頭はどうなっているんだ! なぜこんなかんたんな問題がわからないんだ!」

 向かい合わせに座って採点をする先生が、イライラしながら赤ペンで机をたたき鳴らします。

「おまえらにいくら教えても時間の無駄だ! あとは家で各自やるように!」

 先生は、ノートを閉じると、ドアをバシンと乱暴に閉めて、教室から出ていってしまいました。

 天の子どもは、がっくりとうなだれます。

 もう一人の居残りの生徒が、再びノートを開きました。

「……ぼく、この問題ならわかるよ。一緒に解いていこうよ」

 その子は、天の子どもがわからなかった問題を、一生懸命教えます。

「やった! ぼくわかった! ぼくわかったよ!」

 そう言って天の子どもが喜ぶのを見て、教えた子も心から喜びました。

「わかるようになってよかったね」 

「君の教え方がいいんだよ。とってもわかりやすかった」

「そんなことないよ……」

 教えた子は、照れくさいような誇らしいような、もじもじとしたうれしい気分になりました。

「ぼくもわからなかった問題だからだよ。ぼくがわかっていったように、君に教えていっただけさ」

「ぼくもっと君に教わりたいな。いいかい?」

「ぼくでよければ……」

 教えた子は、はにかみながらうなずきます。

 それから毎日、二人は学校の後、どちらかの家で、一緒に勉強しました。
 天の子どもにとっては、怖い先生の居残り授業よりも、ずっと楽しい時間となりました。
 教える子も、天の子どもにわかりやすく教えるために、もっともっとたくさん勉強しました。

 そして卒業試験も終わり、二人は無事卒業することができました。

 卒業式の日、天の子どもは、今まで勉強を教えてくれた子にお礼を言いました。

「ありがとう。君のおかげで卒業できたよ」

「ぼくの方こそありがとう。君と勉強できて本当に楽しかったよ」

 二人はしっかり握手して、にっこりと笑い合いました。

「君はこれからどうするの? 上の学校にいくのかい?」

 教えた子は天の子供に尋ねます。

「う~ん……」

 天の子どもは、少し考えて言いました。

「とりあえず街に出て、何か自分にできることを探してみるつもりさ。君は上の学校に行くのかい?」

「うん……。ぼくね、もっと勉強してみたいんだ。君と一緒に勉強して、勉強が楽しいって思ったんだ」

「ぼくも楽しかった。君が学校の先生だったらよかったのに。そしたらもっと勉強が好きになっていたかもしれないよ」

 天の子どもの言葉に、教えた子はどきんとして、照れくさそうに、ためらいがちに、小さな声で言いました。

「あのね、実はぼく、先生になりたいんだ……」

 教えた子は目を伏せて顔を赤らめると、早口で言葉を続けます。

「落ちこぼれで、居残りばかりのぼくが、こんなこと言うなんておかしいよね? 勉強もできないのに先生なんてさ……」

「そんなことないよ!」

 天の子どもはぱっと顔を輝かせます。

「そんなことない。君ならできる。きっといい先生になれるよ!」

 天の子どもは、うれしくてわくわくするような、熱い思いでいっぱいです。
 同じ思いが相手の中にもわき上がり、やる気と元気が満ちあふれてきます。

「ありがとう。ぼくやるよ! いつか必ず先生になるよ」

 明るいその笑顔を見て、天の子どもは、何ともいえない幸福感に包まれました。
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