エピローグ

文字数 438文字

 私の仕事は相変わらず忙しく、家を空ける時間も多かった。私は一緒に居る時間を十分に取れないことを埋め合わせるように、ペット用のおもちゃを買ったり、見守りアプリを使ったりして、クロが不自由しないように気遣った。何しろ、そのためのお金まで貰っているのだ。

 クロと一緒に暮らし始めてから、またあの夢を見るのだろうかと半ば期待していたのだが、残念ながらあの黒髪ロングヘアーの女性は二度と現れなかった。

 もしも彼女がもう一度現れたら、聞いてみたいことがあったのに、残念だ。

 私は彼女に、一つだけ聞いてみたかったのだ。
 彼を殺したのは、単に自分の居場所を危うくして裏切ろうとしたことへの復讐なのか、それとも、私が捨てた男に養われることを、貴女のプライドが許さなかったのか、と。

 いずれにしても、私はその後長い黒髪の彼女を見ることも感じることもなく、それを訊くことはできなかった。

 ただ、一度だけ、家の中にあの時と同じ長い黒髪が一本落ちていた。
 私はずっとショートカットのままなのに。

(了)
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