夜の歌

文字数 636文字

 アリーアとセトは、さまざまな土地を渡った。
 そのたびに行く手を阻む困難に遭遇したが、力を合わせて切り抜けてきた。
 世界の精霊を葬り、世を支配しようと目論むアポピス。人々に絶望を与え、その負のエネルギーを取り込み、力に変えていく。日増しに強大化していくアポピスの禍は、世界に拡大していた。もう、精霊たちの力も限界が近づいていた。
 アポピスにも気がかりがあった。最大の敵、ベンヌとの決戦を目前に控え、ベンヌが何か良からぬことを画策していると。すでにそのことに気づいたアポピスは、ベンヌの使命を帯びた巫女を殺すために、次々と刺客を放っていた。
 しかし、パズズをはじめ、強力な魔神たちも撃退されていく。アポピス自身は精霊たちとの戦いで動けない。今は手下を送り込むことしかできなかった。
 夜。草原に立つ大きな木の根元で、アリーアとセトは休んでいた。アリーアはいつも夜になると歌を唄う。懐かしき故郷の歌を。その歌を聴くことが、セトの心の安らぎだった。
 夜半。アリーアが眠る。アリーアは一度深く眠ると、危険が迫らない限り目を覚まさない。セトは、アリーアの前では禁忌ともとれる、獣人の姿になった。アリーアの頬に触れる。
 このままアリーアに口づけをして、彼女の身も心もすべて、己のものとしたい。狂おしいほどの想いが、セトの中に渦巻いていた。
 しかし、セトは耐えた。アリーアの頭を優しく撫でると、狼の姿に戻る。アリーアの傍らで、じっとする。アリーアの歌。それを思い出し、セトも眠りについた。
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