最終話 somewhere,again (11)

文字数 622文字

 恋坂の前にいたまばらのカップル達は状況が理解できず、ただ二人を静かに見守っている。
 その中には券売所から出てきた気品を纏う老婦人と、古びた喫茶店の年老いたマスターもいる。
「これでようやく役目も終わりね……」
 老婦人はうっすらと涙を溜め、嬉しそうに呟く。
「そうさなぁ。ようやく再会させてやることができたわい」
 マスターも目頭を熱くし、一粒の涙を溢してしまう。
「でも、あなたはまだ駄目よ。ちゃんとあの子に仕事を教えてあげないと」
「なあに、あの子ならすぐに覚えてしまうわい」
 再会させるため、影で骨を折っていた二人は、互いの健闘を労うように言葉を交わし合う。

「颯くん。私ね、颯くんに会ったらずっと言いたいことがあったの」
 涙でぐしゃぐしゃの一颯は顔を上げ、夏帆と目を交わす。
「なに?」
 くすっと微笑む夏帆は、心の中で封をしてずっと大切に閉まってした言葉を紡ぐ。
「きっと、──」
 そして互いの名を呼びあい、二人は強く強く抱きしめ合う。
 10年分の鬱積した想いを力強くぶつけあうかのように。

 失くした最後のピースがはまり、元に戻った二人はもう大丈夫だろう。
 きっと、二人の距離が開くことはもう二度とない。
 離れることは二度とない。
 心の欠片が消滅することは、もう二度とない。
 二人はそう強く思い、あらためて互いを引き寄せる手に力を込め合う。
 涙を流し合う二人には、先程の夏帆の言葉がいつまでも残響していた。


 きっと、──

 
 ──どこかで、また逢えたね!

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