技術

文字数 2,438文字

理事種族ゴモリーの代表人格は、新帝国の技術についてかく語りき。

『新帝国の文明理論によれば、技術と政策は文明を支える二本柱なり。
文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動なり。
科学・技術はこれを豊かにし、制度・政策はこれを健全に保つために、
それぞれ分業化せる活動なり』



『しかし、科学・技術は物的資源に具現化し得ざれば
経済・社会活動を豊かになし得ず、
制度・政策は人的資源を通じて実現し得ざれば
経済・社会活動を健全に保ち得ざるなり。
また、さらなる文明の発展には、制度・政策が自然・社会環境に配慮しつつ、
次世代技術の健全な開発・普及を促すことが重要なり』

『 従って、科学・技術が経済・社会活動を豊かにするには、
次の4つの経路(ルート)が存在せり 』



『第一は、直接経路(ルート)ともいうべき主力技術なり。
これは農業・工業・情報・人工知能技術の如く、
経済・社会活動の生産性を(いちじる)しく高め、
ひいては制度・政策にまで変化をもたらして、
文明の発展段階を画するほどの直接的影響力をもつ技術なり』

『理事種族アスモデウスは現在の主力技術すなわち、
様々な種族の個性を保ちつつ融和を可能とする、
量子人格互換技術や共通個体生成技術などの
種族間親和技術を最も多く保有せり。
これは種族間紛争の絶えざりし旧帝国における、
民生産業種族としての挫折の経験を(かて)として
開発されしものなり』

『第二は、間接経路(ルート)ともいうべき関連技術なり。
農業時代における冶金(やきん)技術、工業時代における電気工学技術、
電算機(コンピュータ)時代における演算指示(プログラム)工学技術など、
主力技術の物的資源化による実現を助けると共に、
次なる主力技術を導く可能性のある経路なり』

『理事種族アモンは現在の関連技術として、
最も重要な社会基盤(インフラストラクチャー)すなわち、
星域間を結びて輸送や通信を行う超空間回廊網を管理せり。
これは〝先帝〟を傀儡(かいらい)化せし側近団たる、
〝中枢種族〟間の内戦に巻き込まれ、
姉妹種族カイムとの悲劇的な相互破壊を招きたる教訓をもとに、
両者の融和的再生を通じて開発されしものなり』

『第三は、技術の自助経路(ルート)ともいうべき、研究・開発技術なり。
広義においては経済・社会活動の一部たる、科学・技術の研究・開発に際し、
理論構築・検証技術の考案、必要施設・機器の建設・製作や、
研究・開発組織の運営を助ける経路なり』

『理事種族ストラスは、まずこの研究・開発技術の創案によりて、
種族間親和技術や超空間回廊技術の基礎理論を構築し、
アスモデウスやアモンに提供せり。
これは、かつて自らが中枢種族ラジエルにより、
銀河系外周種族を征服するための人格量子化技術を開発すべく、
被験体兼演算装置として利用されし苦難の過去が与えたる才能なり』

『第四は、技術と政策の互助経路(ルート)ともいうべき、社会工学的技術なり。
これは政策の立案を助ける企画支援技術(オペレーションズ・リサーチ)
政策の実現に必要な人的資源を育成する教育技術、
政策が経済・社会に直接働きかけて利害を調整することを助ける
組織・会計技術、などの経路なり 』

『理事種族マルコシアスは個体群種族の時代から社会工学的技術を駆使して、
アンドロメダ銀河の中央部における健全な社会運営に貢献せり。
これは、かつて自らが同銀河の覇権種族に利用され、
悲惨な戦禍を招きたる反省や、
あるいはその後の中枢種族による侵略を受け、
抵抗運動を行いたる経験に(つちか)われしものなり』

『以上の技術を助けるものとして、
互助経路(ルート)の相手方となる、技術的政策もまた重要なり。
知恵の光を運ぶ者(ルシファー)〟の愛称を持つ現皇帝種族サタンは、
猫とコウモリの混血に似て愛らしき小動物から進化せる、心優しき種族なり。
この種族は、人類を含む発展途上種族に対する支援の実績から、
量子頭脳への人格移転(マインドアップローディング)を認められ、
高度演算能力と共有人格形成能力を有する、最先進種族へと発展せり。
彼女は〝先帝〟種族から多数の亡命者を指導者として受け入れる一方、
幾多の困難を経つつも、先の四種族を含む同輩の友好種族と連携を継続し、
他の政策と共に、技術の健全な開発・普及のための技術的政策に尽力せり。
これにより彼女は、〝先帝〟種族を初め多くの種族を滅したる
中枢種族間の内戦においても、秩序の回復と社会の復興に成功し、
新国家に戦前以上の繁栄をもたらせり』



『しかし、かかる政策もまた、
かつて自ら伝承説話の悪役を演じてまで推進せる文明支援計画に対し、
中枢種族から軍事種族育成目的の干渉を受けて、
多くの種族が犠牲となりし悲劇の歴史から、生まれしものなり』

『技術は文明発展の必要条件なり。
技術なくして文明なく、新たな技術なくして文明段階の発展なし。
しかし、技術による社会変化に対して社会の健全性を保つと共に、
さらなる新技術の開発・普及を助けるものは政策なり。
またその政策の基礎となるものは、全ての人々が抱く、
過去の経験や教訓に基づく社会需要なり』

『これより民主化が予定される新国家が目指す、
技術革新・社会繁栄・政策向上の止むことなき循環による文明発展において、
もっとも若き先進種族となりし人類が、
以上を念頭にさらなる参画と貢献を果たされんことを、
我もまた他の理事種族と同様、大いに期待するものなり』と。
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