第27話 駒とめて

文字数 1,016文字

「高速道路の立ち往生は未だ解消されず、ドライバーは今夜も不安な夜を過ごすことになりそうです……」
 車載ラジオから流れるアナウンサーの声は他人事のようで、違和感を覚えた永岡雅和は都会のまったく雪もない踏切が上がるのを待っていた。
「あれは体験しないと怖さなんて分からんさ……」
 雅和が会社を出発したのは午前の早い時間だった。冬の穏やかな朝に掛かってきた得意先からの一本の電話で発覚した部下の発送ミス。上司の雅和は製品と粗品を詰め込むと急いで社用車に乗り込み北へと向かった。
 高速道路上の晴れ渡っていた冬の青空も北方の山々が近づくにつれ徐々に灰色の空へと変わり、まるで行く手の先にある不始末と重なるようだった。山を越えトンネルを抜けるたびに天候は悪化し、ちらついていた雪もやがて吹雪へと変わった。そして、最寄りのインターに着いた頃には、側道に雪が積もり始めていた。
 恐る恐る先方の会社を訪問した雅和にとって手厚い出迎えは拍子抜けだった。むしろ遠いところよく来たといわんばかりの歓迎で、ミスは良くないが事後対応の誠実さを田舎の小さな会社の気さくな社長は褒め、これでようやく雅和の肩の荷は下りた。
 天候が悪くなるから泊まっていけ、という社長の好意を丁重に断り、慣れない積雪の中、訪問先を出発した雅和はコンビニで車を止め自社へ無事を報告した。電話口の部長は安堵の息を吐きながらも天候の心配をし、ホテルの宿泊も許可したが、雅和は無理そうならSAで様子を見ますよ、と言って電話を切った。しかし、コンビニの駐車場を出るのにも一苦労な積雪は益々酷くなる一方で、雅和はSAの仮眠を覚悟した。
 本来であれば来た道を引き返すだけでインターへ辿り着くはずだが、ナビの順路に従い雅和は田舎の裏道を進んだ。纏わりつく新雪、消えゆく道の境界線、離合するにも時間を要し、みるみるうちに高くなる雪の壁、民家もなくなり、ワイパーが追いつかないほどの吹雪で視界は遮られ、ちょうど閉じられた踏切の前で立ち止まった。そして、そのままスタックした車は坂を登れず、雅和は誰もいない暗い雪の世界の真ん中で二時間も誰かが来るのを待ち続けた。
「誰かと思ったら永岡さん、なーしたが?」
 結局、雅和は偶然再会した気さくな社長に助けられ、近所の社長の家で一泊させてもらうこととなった。
 延々と降り積もる雪と鳴り響いた踏切の音。
 眼の前の黒と黄の遮断機が上がると、雅和はアクセルを軽く踏み込んだ。
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