あなたの欲しい物が必ず見つかる店

エピソード文字数 1,221文字

 そのお店は、平和で長閑な田舎町で新装開店した。店の看板はこう記してあった。

〈あなたの欲しい物が必ず見つかる店〉

 店の入口のドアにプレートがかかっている。
 小さな四角いプレートだった。
 白地に赤い文字で、
 <営業中>
 と書かれている。
 ぜんぜん広くないこぢんまりとした建物だった。
 警察官は都会での犯罪事件に疲れ果て、ここへやってきた。
 珍しいお店ができたものだ――店主はいったいどんな人物なんだろうといぶかった。
 店が開店した直後、学校をずる休みした少年が店のドアを開けた。古めかしい骨董品がずらりと並んでいた。誰もいないのかなと、少年は店のなかきょろきょろと見回した。
「いらっしゃいませ」
 とつぜん黒いスーツ姿の老人が目の前に現れ少年はびっくりした。どうやらこの店の店主に違いないと、少年は目をぱちくりした。
「坊やの欲しいものは、これかね」
 店主の手には、希少価値の高いファミコンのカセットがあった――限定六〇〇本のファミコンソフトだった。
「どうしてぼくの欲しいものがわかったの?」
「この店はなんでもござれさ」
「いくら?」
「十万円だ」
「ぼく、たった千円ぽっちしかもってないよ」
「では、取引をしよう」
「えっ?」少年はぽかんとした顔となった。
「簡単なことさ――きみはちょっとだけ悪戯(いたずら)をしてくれればいい」
「はい、わかりました」

 しかし、この悪戯が悪戯ではなく町全体を飲み込んでしまう大きな事件に発展してしまった――町の至るところで人々がお互いを傷つけ合い、しまいには暴力や殺し合いがはじまった。
 警察官は店主の正体が何者であるかに気がついた。
 彼は店を訪ねた。
「いったい、なにものだ」
 警察官が不思議そうに訊くと、店主はにやにや笑ったような顔で答えた。
「わたしは悪魔だ」
「なるほど……旧約聖書に記された悪魔は、そんな格好をしていなかった。しかし、本当にいるとは思わなかったな」
「信じたくなければ、信じないでいればいい――だが、わたしはちゃんと、ここにいる――十字架に(はりつけ)にされた男は前途ある若者だった」
 警察官は何度も目をこすり、気持ちを落ち着け、おそるおそる質問した。
「なんで、こんなところに現れたんだ?」
「平和で長閑な田舎町はだいきらいなタチでね」
「もうこれぐらいでやめたらどうだ」
「ことわる!」
 とつぜん悪魔が襲いかかってきた。
 警察官は拳銃の引き金をしぼった。
 バーン!
 しかし、悪魔は心臓を撃たれても無傷のままだった。
「わたしは人間が欲しい物と引き換えに取引をしただけだ。ひゃーはっはっはっ」
 甲高い笑い声をあげている悪魔は、警察官の目の前で消えていった。
 あわてて彼はドアを開けて外へ出た。
 そのドアに、警察官は眼をやった。
 かけられたプレートの文字は、
 黒地に赤い文字で、
 <閉店?>
 になっていた。

 
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