詩小説『あれが恋だったのか』3分のありふれた想い出。大人になった人へ。

エピソード文字数 692文字

あれが恋だったのか

原付バイクがアパートに停まる。

階段を駆け上がる錆びた音。

呼び鈴何度か鳴り響いて。

開けた扉、君は居た。

ニット帽から垂れる茶色い髪。

冷たいスウェットパーカー。鼻を赤くして。

跳ねるように脱ぎ捨てられるクロックス。

ふわふわの靴下が顔を出す。

寒い、寒いと勢い良く部屋に入って来る。

袋から取り出したミルクティ。

あれが恋だったのか。
気づかなかったよ、大人になるまでは。

煌めいてもないのに。
知らず知らずに、そこは青春だった。

大学生には似合わない田んぼのふち。

枯れ果てた景色をふたりは歩く。

畦道の草は薄らと白く染めている。

踏みつける度に氷が割れる小さな音。

誰も使わない近道を抜けて、

広がる河原道、粒が光っていた。

公民館の駐車場に備え付けられた、
木の椅子は濡れていた。

君は、白い息を零して、

日を弾き流れる川、ぼんやり眺めてた。

あれが恋だったのか。
気づかなかったよ、大人になるまでは。

ありふれていたのに。
大層なものではない、それが青春だった。

黙りこくっていた君が、
何気ないように零したのは、
これからのこと。

僕はうなづいて、微笑んで、
でも、言葉は出なかった。
思い浮かんだのは、さよならだったから。

あれが恋だったのか。
気づかなかったよ、大人になるまでは。

煌めいてもないのに。
知らず知らずに、そこは青春だった。

あれが恋だったのか。
気づかなかったよ、大人になるまでは。

ありふれていたのに。
大層なものではない、それが青春だった。

戻らない。戻れないから。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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