至道流星

文字数 4,267文字

1月5日22半からここで至道流星が執筆を行います。他の方は書き込みをお控え下さい。
単刀直入に言おう。ワシは、貴様を殺すためここに来た。
えっ!?
場所は渋谷ハチ公前。
あふれんばかりの若者たちの雑踏のなか、明らかに周りから浮き出た風のスーツ姿の老人が、別緒鈴また子と向かい合っていた。だが老人といっても背筋は綺麗に伸び、若かりし頃は軍人だったか、それとも一角の経営者でもあったかのように見える。

shidou

源雷太だ。貴様を殺す老人の名として記憶に留めてもらっておいてもいいだろう。
えっと……おじいちゃん、病院行く……?
貴様がカルト宗教組織婦女おまた会に属する暗殺者であることを知っている。何人殺してきた?
!?
なぜそれを……!
貴様が所属するカルトが、この日本を滅ぼすために活動していることもお見通しだよ。
世界が滅ぶのは構わない。だが我が国を滅ぼさせるわけにはいかない――!
へえ、そこまで知っていて、自分の命があるとは思わないことね。私に殺されに来たようなものよ。
このワシとて魔人だ。ワシは今、魔人を駆除する最期の仕事をしている。だからこうして、貴様の前に立っているんだ。
あなたも魔人……? 魔人を駆除……? 近頃、魔人がひっそりと消えゆく事件が相次いでいるってニュースが流れてたけど、まさか……
そのまさかだと、思ってくれていい。
昨日も魔人の死体が3人分見つかったってニュースで流れていたけれど……それをあなたが仕掛けていたとでもいうの!?
……いかにも。否定はしまいよ。
…………。
…………。
……なぜ魔人を殺すの? 私たちは迫害の対象だった。魔人に覚醒してしまったせいで私は……ッ!
こんな世界、どうなったっていいじゃない! 滅ぼすべきよ! そうは思わないの?
魔人同士で手を取り合って、こんな世界は滅ぼしてやりましょうよ!
魔人だからそれがどうしたというのだ。ワシの存在意義はただひとつ。日本そのものよ。ワシは日本を守らねばならぬ。それがワシの定め――
……はい?
あなたは同胞である魔人よりも、日本とかいうよくわからないもののほうが大事だっていうの?
そうだ。
そんなことで、魔人を次々と失踪させたり、亡き者にしてきたというの!?
そうだ。
一万歩譲って日本が大事だとして……なぜ魔人殺害が日本を守ることに繋がるって言うのよ!
魔人には力がある。それは魔人である和紙が一番よく知っている。和紙亡きあと、強烈な意志を持った魔人の誰かが、この国の中枢に収まる可能性は極めて高かろう。他らなぬこの和紙がそうだったようにな。だが、頂点に君臨する潜在力を秘めた魔人が日本を守る意思がないのなら、それは災いにしかならぬと儂には確信できている。
異次元すぎて私にはワケがわかららない……。私が殺しだって大概だったけど、あなたはもう別次元……。
その話は済んでいる。もはや貴様に議論の時間を取ってやる義理は終えた。
いいわ。ここで私が、あなたを殺す。
数多の魔人を消してきたあなたは、おそらく強大な特殊能力の使い手なんでしょうね。そして私の特殊能力は、おそらく老人のあなたには通用しない……。それでも、私のすべてを掛けてあなたに傷の一つも追わせてあげるわ。あなたのような老体なら、ちょっとした傷でも致命傷になるでしょう!
ほう、ワシを殺すのか、今ここで。愚かな。冷静に周りを見てみろ。
また子は気づいた。何気ない風を装いながら、自分たちへと視線を向ける者たちが少なくとも100人はいる。この雑踏のなかに。信じがたい。
また子はある意味、まるで映画のなかの舞台役者にでもなったかのような感覚に襲われた。

shidou

な、なんだっていうの、一体……。渋谷よ、ここは……。
貴様にも、大事に思う相手がおるはずだ。貴様に死ぬ意志がないのなら、その者に巨大な不幸が訪れることになるぞ。
お生憎さま。生まれてこの方、そんな相手はいないわ。
強がりはよせ。……ならば、これは誰だ?
源雷太は、一枚の写真をスーツの胸ポケットから取り出した。それをまた子へと弾いてやる。
その暗殺者としての反射神経から、地上に落ちる前に、また子は写真をつかみ取った。写真を見やり、また子は真っ青になる。

shidou

お、お母さん!
身柄は丁重にお預かりしている。
貴様が誰よりも母親を大事にしていることを、ワシが調べもせずにノコノコ現れたと思っていたのか?
くっ……………………
くううううう…………………………
だが……貴様の調査を進めるほどに、ワシは確信した。お前はたしかに目的のために人を殺めてきた。
それでもお前はその力に溺れず、母親思いの娘であり続けたことを知っている。
高校時代、いじめられていた同級生をお前は身体を張って救っている。ホームレスに差し入れを続けていることも知っている。命懸けで溺れる少年を助けたことも知っているぞ。
どこを調べても、貴様は暗殺者としての顔以外のことで、責めるようなところが見つかりもしない。
魔人としてのきわめて高い能力があるお前だが、人間として和紙はお前を非常に高く評価している。
…………。
だからこそ、ワシ自らが引導を渡さねばならぬと考えて、こうして赴いたのだ。
他の魔人たちは、ワシ自ら動かずとも、身柄を押さえ次第焼却処分している。だが貴様のような際立った魔人には、別の礼をもって接するべきだろう。ワシとて、それくらいの礼儀は持ち合わせておる。
そして貴様ならば、ワシを無意味に殺さないことも知っていた。
ねえ、行方不明になってる真理子を攫ったのもあなたなの? 私の魔人としての唯一の友達だったのに……!
……ワシは、亡き者にしてきた魔人の名前をすべて記憶している。だから貴様の疑問に答えよう。その通りだと。
国とかそんな目にも見えなくて訳のわからないものが、どれだけ大事だっていうの!?
何なのよ! あなたの何だっていうのよ……!
ワシのすべてだ。
あなたは畜生よ!
私は暗殺者としての自分が畜生であることを自覚している! だけどあなたは、自覚すらない畜生よ!
人はみな畜生のようなものだろう。その文言は、人を責めるような言葉ではない。
実に無惨で愚か極まる人生ね! なにが日本よ! 勝手にしなさい! 私には日本の将来なんて関係ない! 日本も世界も丸ごと滅ぼしてやるわ!
……ワシの人生が愚かだったことは、死にゆく貴様にだけは認めてもいい。ただワシは、自身を完全否定できるような強い人間ではないのでな。生きながらえることには未練はないが、自らの考えを変えられるような勇気は持ち合わせておらんのだよ。
お母さん……ごめんなさい……! きっとあの世で見守るからね……!
次の瞬間、また子の拳が、源雷太の頬に綺麗にめり込んだ。たちまち源雷太はのけぞり、その場に頽れた。
その瞬間、雑踏のなか佇んでいた源雷太のSPのような者たちが、わらわらとまた子へと飛びかかった。たちまちまた子は組みふされてしまう。

shidou

いくら多人数が相手とはいえど、普段のまた子なら、抵抗くらいは十分できたはずだ。だがまた子は戸惑う気持ちが大きく、次の展開を考えられなくなっていた。
そもそも自分は、自決覚悟で源雷太に拳を突き入れたのだ。しかし予想外にクリーンヒットが決まり、源雷太はごく普通の老人のように崩れ落ち、また子は困惑することしきりだった。魔人を殺しつくしてきたという源雷太に、自らの正拳付が決まるとは想像していなかったのだ。途方もない特殊能力で、この拳が入る前に、自身の息の根が止まっているとさえ思っていたのに!

shidou

どこからともなくパトカーが何台も、渋谷の交差点を埋め尽くした。ただでさえ人波に溢れる交差点は、混迷を極めていた。警察官の怒号が響き、若者の叫びが聞こえる。

shidou

【SP】
源先生!? 大丈夫ですか!?
老人はゆっくりと顔を上げた。

shidou

【SP】
血が……。
いらぬ心配だ。この命など惜しくはない。この程度で済んだのは天祐だったよ
【SP】
すぐ医師が参ります。どうか安静に。
あの少女はワシを殺さなかった。力を、発動すらもしなかった。おそらく母親を守るために、自決覚悟だったのだろう。あの少女の母親には生涯豊かに暮らせるだけのワシの資産の一部を……いや……
――それから3か月後。

shidou

源雷太は病棟にいた。もう長くはない余命を、もう少しだけ繋がなくてはならない。
自分が編成した心理学者たちのチームが結果を出せば、もうすぐ答えは出てくれるだろう――。

shidou

【心理学者】
源先生。思想改造、完了いたしました。
そうか、ご苦労。ワシが直接会おう。
【心理学者】
いやしかし、そのお身体では……
ワシが直接会わずして、誰が見届けるというのか。這いつくばってでもワシは行くぞ。
【心理学者】
車椅子の用意を!
源雷太が向かった先は、自らが所有する都内の別邸だった。
目黒の高台に佇む静寂な邸宅は、都内にもかかわらず1000坪に達するかというほどの個人庭園を備えていた。

老人は、車椅子で自らの邸宅へと踏み入れる。
その邸宅の縁側で、一人の魔人、また子が新聞を読んでいた。
また子はつまらなそうに顔を上げる。

shidou

3か月ぶり……か。
そうなるな。新聞は楽しいのか。
他にやることがなかっただけよ。見て、今日の朝刊の一面。ふん、新正党の連中はバカなのかな? 自分が日本人だってことを知らないの?
まぁこういう愚かな人たちがいるから、平和ボケに沈む日本人の心を蘇らせることができるってことかもしれないわよね。
……愚かな人間、愚かなニュース……そういったものが溢れているのは、あながち悪いことばかりでもない。いかなる物事にも、反動というのはあるからだ。
あのね、前から気づいていたけれど、そういう哲学っぽい物言いが気に食わないのよね。
なに、もうすぐ死にゆく老人の戯言だ。
はあ? なに言ってるのよ。あなたががいなくちゃ、日本はどうなるっていうの?
ワシももう寿命じゃろう。自分のことは、自分が一番よく知っている。
結局、生き残るのは貴様だろう。
生きなさいよ、もう少し。この国はこれからまさに混迷の度合いを深めていくのよ。アメリカはますます内向的になるし、中国はさらに覇権主義的になるでしょう。
その反面、この国のだらしなさは何なのよ! 私はね、腑抜け切った日本人の顔を見るだけで殴り飛ばしてやるたくなるの。日本人ってものは、そんなヤワなもんじゃないはずでしょう!?
なに、ワシは未来を案じておらぬ。ワシ亡きあとの日本は、貴様が継いでくれるからじゃよ――
23時29分……時間ギリギリ……もう少しと思いましたが、ここで終了させて頂きます。
つたない即興の文章にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

shidou

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登場人物紹介

1月5日22時~に、ここに至道流星、架神恭介の作ってきた互いのキャラクターが投稿されます。観客の皆さんは「ショートストーリーが面白かった方」のキャラクターに☆をつけて下さい。

名前:別緒鈴また子(べっちょりん・またこ)
性別:♀
特殊能力:『シークレットコピー』
※コンプライアンスに触れたので非公開となりました。

名前:
源 雷太(みなもと らいた)

性別:

特殊能力:
『皇国の威光』
自分に対する批判や攻撃を、重大極まる国家反逆行為に転換して解釈する。
侠客として名を馳せ、畏怖の対象となっている源雷太は、自らのあらゆる行動・考えのすべてを、日本国家の安寧のためにささげてきた。一分一秒たりとも日本のために生きなかった瞬間はない。それがゆえ、一片の曇りもなく日本精神を体現すると考える自分への攻撃相手を、日本国家に仇なす相手だと認定する。
国家反逆視された相手は、売国奴として国中に名を馳せ社会的に破滅させられたり、ひっそりと山奥で亡くなっていたりする。しかも本人ばかりか、血のつながりが確認できるすべての者に災いが及ぶ。
源雷太がどのような力で相手を貶めているかは側近以外に直接把握している者はいないが、あらゆる手段(暴力や法やマスメディア)を用いて相手の一族を粉々に打ち砕いているのは公然の秘密である。
そしてもし自分を殺すような魔人が現れた場合には、その者は必ず日本国家に大いなる厄災をもたらす元凶だと確信しており、源雷太に忠誠を誓う部下たちが、資金やメディアや権力を総動員してその元凶の一族郎党にトドメを刺せる万全の体制を整えている。

年齢:
96歳

設定:
身体能力は96歳そのものであり、力が強いわけでも、思念で人を殺せるわけでもない。90代も半ばとなればやや頭の回転が鈍り始めているものの、若かりし頃の街宣活動・軍事訓練で鍛えたよく通る声と軍人のような背筋は少しも衰えていない風に見える。
自らが培った鋼鉄の信念こそが魔人の証であり、自身の信条を片時も疑わずに実践し尽くしたからこそ、日本国50年間の政治経済界を裏で支える巨人にまでなった。時の総理や政治家や経済人たちも源雷太に逆らえば破滅あるのみと知り、その一声に屈服せぬ者はいない。

若いころは国士を気取るヤクザ者を連れまわし、壮年時代においてはありあまる資金力と政財界に繋がる人脈を武器に実質的に国家権力を掌握していた。必要とあらば事件を捏造することも、メディアを動かすことも、警察を動かすことも可能。
だが決して自らが独裁者になりたいがゆえの無法ではない。国を愛し、故郷を愛し、武士道を究極的に追及しているからこその、源雷太なりの正義なのである。もし自分が死が日本国にとって輝かしい未来に繋がるのであれば、源雷太は躊躇なく即座に自分を殺すであろう。
すべての権力者たちは源雷太を恐怖の代名詞のように扱うものの、その反面、畏敬と敬愛の念を抱いているのだった。

源雷太は人生において、敵と定めた相手との闘争で、ただの一度も敗れたことはない。なぜなら勝つまで攻撃をやめることがないからだ。
しかし繰り返すが、身体能力は並みの96歳である。だが魔人としての信念が、老いに蝕まれる源雷太を強烈に支え、今まさに消えゆく魂を燃やし尽くそうとしていた。
そして源雷太は最後に残された己の仕事として、自分亡きあとの日本の将来を憂い、禍根を断つため魔人掃討に乗り出した。

相手を倒したい動機:
自分亡きあとの日本に災いをもたらす者がいるとすれば、それは自分に代わるほどの強固な意志を持つ魔人であり、その者はおそらく自分のように日本を愛していないことを源雷太は知っていた。なぜならそれほどの信念と力があり、国家に対する忠誠を誓う者がいたとしたら、すでに自分と接点がないはずがないからだ。
日本の頂点に君臨するほどの力を持つ魔人は、日本を愛さねばならない。愛せないのなら死んでもらうほかない。魔人の頂点ほどになれば国家を動かすほどの力を持つことになるのだから、もしその者が、国より金や地位など他のものを優先するとすれば、この国の将来はどうなるというのか。やはり魔人という種族には死に絶えてもらわなくてはならない、自分と共に。
その想いに一点の曇りもなくなった今、自分なきあとの日本国の将来を憂い、禍根を断つため魔人掃討に乗り出した。
今はただ、魔人を根絶やしにしなくてはならないという強烈な思念に駆り立てられている。まるで若かりしころに一気に頭角を現した原動力を取り戻したかのようだが、己の余命を悟った末の最後の戦いだけに鬼気迫るものがあった――。

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