童話:キャラメル・ボックス第1話~不思議なキャラメル
文字数 1,461文字
昔々、あるところにルネットという女の子がいました。ルネットは毎日、ガラス瓶の底を並べたような窓を開けて、空想にふけっていました。
お姫様になってきれいなドレスを着て、舞踏会で王子様と踊ったり、魔法使いになって菜の花畑の上を自由に飛んだり、船乗りになってまだ見たこともない海で冒険をしたり、そんなことを想像して、クレヨンで絵を描いたりしているだけで、あっという間に時間が経ってしまうのでした。クレヨンは女の子の部屋から広い世界に架かる虹のようでした。
クレヨンの横には鍵がかかる小さな箱がありました。もとはお母さんの宝石箱でしたが、おねだりしてもらったのです。中にはキャラメルが入っていて、それを知ってる黒猫のメルメルが爪を立てて開けようとしています。メルメルは子猫の頃、街はずれの十字路でみーみー鳴いていたのをルネットに見つけてもらったんです。それ以来、女の子と猫はとってもなかよしでした。
「あーあ。メルメルったらまたそんなことして」
箱に新しい爪あとがついているのを見て、ルネットはにらみます。猫は知らんぷりして顔をなでています。ルネットもメルメルも甘いものが大好きなんですが、キャラメルはメルメルがいないときにしか食べていなかったのです。なかよしなのにずるいですって? だって、それはお父さんが遠い北の街にお仕事で行ったときに買ってきてくれたもので、「?」の形に似ためずらしいものだったんですよ。
お昼が近いけれど、まだ「お手伝いしなさい」っていうお母さんの声は聞こえません。おなかが空いたルネットは箱を開けて、一つキャラメルを取り出して口に入れようとしました。するとメルメルはにゃあにゃあ鳴きながら、ルネットの顔をペロペロなめ始めました。
「もう仕方ないなぁ」
口の中でやわらかくなったキャラメルを噛んで半分にして、メルメルにあげました。黒猫は満足そうに目を細めて、こう言いました。
「ありがと。ルネット」
ルネットはびっくりしてせっかくのキャラメルを飲み込んでしまいました。
「ど、どうしたの?!」
「あわわ。ぼく人間の言葉しゃべった?」
「……うん。しゃべってるよ。うん」
ルネットは何回もうなずきました。
「このキャラメルのせいかな? 喉がふわっと広がった感じだから」
「す、すごいよ。お母さんに教えてあげなくちゃ」
「あ、やめた方がいいよ」
「なぜ?」
「メイプル・シロップがこぼれるような気がするんだ」
「なにそれ?」
ルネットの頭の中が???ってなったときに甘いにおいが下から上がってきました。お昼は大好きなパンケーキです。パンケーキ? まさか……。でも……。
急いで階段を下ったルネットは台所に飛びこんで、
「お母さん! 気をつけて!」って叫びました。
ところが勢いあまってテーブルにぶつかってしまい……あとはわかりますよね? メイプルシロップを入れたつぼが床に落ちて、がしゃん!
「ルネット! 気をつけなきゃいけないのはあんたでしょ!」
こっぴどく叱られている女の子のそばで、ゆっくりと台所に入ってきた黒猫は澄ました顔で床のメイプル・シロップをなめています。メルメルのせいで、今日のパンケーキはメイプル・シロップなしになっちゃったって、うらめしく思っていました。
さてさて、この不思議な猫とキャラメルはこれからどんな事件を引き起こすんでしょうね。まあ、それはゆっくりお話するとして、今日はこれくらいで。……あ、そうそう、言うの忘れてましたけど、ルネットのお部屋って屋根裏部屋で、周り全部がキャラメルのような色の丸太なんです。
お姫様になってきれいなドレスを着て、舞踏会で王子様と踊ったり、魔法使いになって菜の花畑の上を自由に飛んだり、船乗りになってまだ見たこともない海で冒険をしたり、そんなことを想像して、クレヨンで絵を描いたりしているだけで、あっという間に時間が経ってしまうのでした。クレヨンは女の子の部屋から広い世界に架かる虹のようでした。
クレヨンの横には鍵がかかる小さな箱がありました。もとはお母さんの宝石箱でしたが、おねだりしてもらったのです。中にはキャラメルが入っていて、それを知ってる黒猫のメルメルが爪を立てて開けようとしています。メルメルは子猫の頃、街はずれの十字路でみーみー鳴いていたのをルネットに見つけてもらったんです。それ以来、女の子と猫はとってもなかよしでした。
「あーあ。メルメルったらまたそんなことして」
箱に新しい爪あとがついているのを見て、ルネットはにらみます。猫は知らんぷりして顔をなでています。ルネットもメルメルも甘いものが大好きなんですが、キャラメルはメルメルがいないときにしか食べていなかったのです。なかよしなのにずるいですって? だって、それはお父さんが遠い北の街にお仕事で行ったときに買ってきてくれたもので、「?」の形に似ためずらしいものだったんですよ。
お昼が近いけれど、まだ「お手伝いしなさい」っていうお母さんの声は聞こえません。おなかが空いたルネットは箱を開けて、一つキャラメルを取り出して口に入れようとしました。するとメルメルはにゃあにゃあ鳴きながら、ルネットの顔をペロペロなめ始めました。
「もう仕方ないなぁ」
口の中でやわらかくなったキャラメルを噛んで半分にして、メルメルにあげました。黒猫は満足そうに目を細めて、こう言いました。
「ありがと。ルネット」
ルネットはびっくりしてせっかくのキャラメルを飲み込んでしまいました。
「ど、どうしたの?!」
「あわわ。ぼく人間の言葉しゃべった?」
「……うん。しゃべってるよ。うん」
ルネットは何回もうなずきました。
「このキャラメルのせいかな? 喉がふわっと広がった感じだから」
「す、すごいよ。お母さんに教えてあげなくちゃ」
「あ、やめた方がいいよ」
「なぜ?」
「メイプル・シロップがこぼれるような気がするんだ」
「なにそれ?」
ルネットの頭の中が???ってなったときに甘いにおいが下から上がってきました。お昼は大好きなパンケーキです。パンケーキ? まさか……。でも……。
急いで階段を下ったルネットは台所に飛びこんで、
「お母さん! 気をつけて!」って叫びました。
ところが勢いあまってテーブルにぶつかってしまい……あとはわかりますよね? メイプルシロップを入れたつぼが床に落ちて、がしゃん!
「ルネット! 気をつけなきゃいけないのはあんたでしょ!」
こっぴどく叱られている女の子のそばで、ゆっくりと台所に入ってきた黒猫は澄ました顔で床のメイプル・シロップをなめています。メルメルのせいで、今日のパンケーキはメイプル・シロップなしになっちゃったって、うらめしく思っていました。
さてさて、この不思議な猫とキャラメルはこれからどんな事件を引き起こすんでしょうね。まあ、それはゆっくりお話するとして、今日はこれくらいで。……あ、そうそう、言うの忘れてましたけど、ルネットのお部屋って屋根裏部屋で、周り全部がキャラメルのような色の丸太なんです。