第二話 memory (5)

文字数 891文字

 拝啓 滝川 一颯様

 今年もいよいよ残りわずかとなってきましたね。こちらでは先日初雪を観測しました。そちらではまだ雪は降っていませんか。
 先日、夢を見ました。
 颯くんとの夢です。
 夢の中で颯くん私のことをすごいと言ってましたよ。
 なんのことか、わからないですね。(笑)
 パズルのことです。
 まだ颯くんが私を「新城さん」と呼んでいた時に、初めて趣味の話をしましたよね。
 昔から体が弱い私はアウトドアな趣味を持つことができませんでした。
 そんな私を見かねて、おばあちゃんがパズルをよく買ってくれました。
 この話も前にしましたね。
 でも、体が弱いということは颯くんにはずっと黙っていました。
 私がそれを話してしまうと、優しい颯くんはきっと気を遣ってばかりになって、窮屈になるんじゃないかと思ったんです。
 あ、また話が反れました。
 私の悪い癖ですね。(笑)
 夢の話に戻しますね。
 修了式の前日に世界一のジグソーパズルのパズルの話をしましたね。
 夢の私はそのパズルよりピースの数が多いパズルを完成させていました。
 それが夢の話です。
 でもこれには続きがあって、完成した後に一ピース無くなっていたんです。
 私は一生懸命探しました。
 でも途中で気づくんです。
 颯くんもいないことに。
 さっきまで一緒に完成を喜んでくれていたのに、颯くんまでいなくなってしまった。
 私は颯くんもピースも探します。
 けれど、結局見つけられずパズルにはぼっかりと寂しい穴が開いていました。
 夢はそこで覚めました。
 でも起きてからも、このぽっかりと開いた穴は颯くんを失った私の心を象徴しているみたいで、涙がとてもたくさん流れてしまいました。
 びっくりするくらい涙があふれて、私がいまも颯くんをとても愛しているということを、否応なく実感しました。
 颯くん。
 あなたは、いま誰を想っていますか。
 あなたの隣には、誰がいるんでしょうか。
 さよならした後も、自分からさよならしたのに、こんなにあなたへの想いを溢れさせている私はどこまでも愚かです。
 ごめんなさい。
 今日はここまでにします。
 またお便りしますね。

 かしこ

 新城 夏帆

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