その必要は。

文字数 974文字

「帰りは特別に、私の傘に入れて あ・げ・る」

 下校時間。

 景冬君は、隣を歩いていた明夏さんから背中を叩かれました。

「地味に痛いから、その癖は止めろ。」

「ほら私の傘、さくらんぼ模様だし!」

「一緒に登校する時に見た」

 廊下に立ち止まる景冬君

「因みに朝、俺も 傘差してなかったか?」

「まあ、雨が降ってたからねぇ」

「じゃあ別に…お前の傘に入れてもらう必要、ないよな?」

 数歩先まで進んでいた明夏さんが、振り返ります。

「私の傘の、どこがいけないの!?

「誰も、そんな事は言ってない」

「─ じゃあ、仕方ないから、私が あんたの傘に 入ってあげる」

「自分の傘があるんだから、その必要は──」

 明夏さんは、景冬君の鼻先に指を突き付けました。

「どうして あんたは、私との相合傘を嫌がる訳!?

「何でお前は、そこまでして一緒の傘に入りたいんだ?」

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「今日私は どうしても、相合傘をする必要があるの!」

 歯を剥いた明夏さんに、景冬君が顔を顰めます。

「その癖も、止めろっていってるよな?」

「本日のラッキーアクションなのよ!!

「─ は?!

 ぽかんする景冬君。

 目を血走らせた明夏さんが、距離を詰めます。

「もし相合傘をしなかったせいで…私の運勢が悪くなったら、責任取れる?」

「─ 朝は やってないけど、何にも起きてないじゃないか。」

「昼休みに、スマホで知ったの!」

「迂闊に、占いなんか見るなよ…」

「悪運は蛍も殺すんだからね!?

 低く雷鳴でも発しかねないオーラを纏って、明夏さんは微笑みました。

「あんたが相合傘してくれないなら…こちらにも考えがあるから」

「ちょっと待て。」

「人通りが多い所で大泣きするから。帰り道、あんたの横でしゃがみこんで!」

 <泣くテロ> 宣言が出たら、もう何を言っても無駄。

 経験上 そう身に沁みている景冬君は、心中に渦巻く感情を抑え込んで呟きます。

「…帰り 俺の傘に入っていくか?」

「し、仕方ないわね。」

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 日付が替わって数分が過ぎた頃。

 ベットの中で明夏さんは、満面の笑みを浮かべました。

「ついに景冬と、念願の相合傘をしちゃった♪ きゃ♡」
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