第2話

文字数 1,012文字

 京都駅で降りると、さらに日差しは強くなっていった。二人のカップルが通り過ぎていく。そんな光景を眺めていると、ふいに白い鳥が駅のホームを歩いていた。どこか憂鬱で絶望しているように見えた。京都まで来たものの、この先の予定など何もない。どこまで行ったところであの鳥のような気分だった。
 駅前にはたくさんの人と建物があった。日差しの中を歩いて行く。その間、無意味なことを考えた。もともと無意味な自分がより無意味になっていく気がした。空には白い雲が浮かんでいる。結局ここまで来たがありきたりな風景が広がっていただけだった。通り過ぎる人々の視線が嫌で逸らした。きっと向こうも自分のことをそう思っているに違いない。
 しばらくの間、通りを歩き続けた。東京とはずいぶん雰囲気が違うなと思った。
「あの……」
 後ろから話しかけられたので振り向くと、リュックサックを背負った若者がいた。
「何ですか?」
「この大学に行きたいのですが」
「僕も今日初めて旅行に来たんです。すみません。ここのことはわからなくて」
「そうですか。今日は暑いですね」
 若者はそう言って汗をぬぐった。
 僕は、また歩き出した。途中、コーヒーショップでアイスコーヒーを買った。このまま歩き続けて何かあるとは思えなかった。僕は自分の中の嫌な部分が時々出てくるのを感じた。気が付くと泣いていた。意味なんかない。ただ目から涙がこぼれ落ちてくる。でも誰も僕のことを見なかったし、気にもしていないようだった。人それぞれ人生がある。僕もこんな旅行は早く切り上げて東京に帰って、友人と飲み会でもすればいいのだ。でもなぜか今は、どこかに行きたかった。自分がいたところではなく。
 歩き続けていると、午後になっていた。どこか今日泊まるホテルを探さないといけない。でも一晩くらいなら野宿するのも悪くない。
 鴨川沿いを僕は歩いていた。足は疲れていた。まるで足かせをされているみたいだった。しかもその足かせは人生の中を付きまとい、侵食していくかのようだった。疲労は感じすぎると感じなくなる。それで、さらに疲労すると、いてもたってもいられないような激しい疲労を感じる。深夜の残業などが続くと、ある日それを感じることがあった。
 川の水は穏やかに流れていた。水面が太陽の光を反射している。そこにいる人は皆穏やかに見えた。僕は少しだけ安心することができた。犬の散歩をしている老人が僕のことをちらっと見て、去っていった。
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