第19話出版社OL 美里

文字数 1,089文字

午後6時、少々疲れた顔の若い女性が入って来た。
飛鳥は、「お疲れ様、美里さん」と、声を抑え気味。

美里は、「ふぅー――・・・」と深いため息、飛鳥の前に座る。

飛鳥は、アップルミントの炭酸水を、美里の前に置く。
「トラブル?」と、声もかける。

美里は、アップルミントの炭酸水をゴクゴクと半分程飲み、また、ため息。
そして、話し出す。

「だってね、飛鳥さん、聞いてよ」
「あの、お局さんなの・・・マジに意地悪」
「細かい所を、しつこくてね」
「この字は間違い、ここに脱字、英数字と漢数字がどうのこうの」
「そんなに文句を言うなら、自分で直せばいいのに」
「何年、編集の仕事をしているの?とかさ」
「どうして、まともに出来ないの?とかさ」
「赤ペンだらけで、原稿を突っ返して来て」

美里は、アップルミントの炭酸水を全部飲んでしまったので、飛鳥は再びグラスを満たす。

美里
「それは、間違いは、恥ずかしいけれどね」
「あのキツイ言葉と顔って、どうにかならないのかな」
「マジで嫌、頭に来る」

飛鳥は、美里の前に、「少し落ち着いて」と、抹茶を置く。
美里は、小さな声で「うん」と頷き、抹茶をゆっくりと飲む。

飛鳥はやわらかな顔。
「お局さん・・・厳しいんだ」
美里
「うん、底意地が悪い」
飛鳥
「美里さんが、ミスをしない時もあるでしょ?」
美里
「そういう時は、やさしい」
「よくできました、とか言ってくれる」
飛鳥
「それを言われると?」
美里
「うれしい、勝利感がある」
飛鳥
「でも、美里さんも忙しくて、お局さんに出す原稿をチェックしきれないこともあるのかな」

美里が「うーん・・・」とうなっていると、キッチンから香苗が顔を出した。
「田舎料理だよ」と言いながら、湯気が立つ小鉢を美里の前に。

美里は、目を丸くした。
「え?この店で?」
「里芋の煮っ転がし?・・・でもいい匂い・・・美味しそう」
そして、里芋を口に入れ、にっこり。
「あら・・・美味しい・・・どうして?」
「お口で溶ける・・・絶品・・・ほっこりして幸せ」

香苗は笑顔。
「素朴な料理だけどね、手抜きをして、恥ずかしい思いとか、お客様にがっかりさせたくないもの」
「手抜きをしたら、里芋が可哀想」
「私も母に厳しく言われたけれど、今になれば良かったなと」

美里は、素直な顔になった。
「明日、お局さんに、しっかり、ごめんなさいをします」
「私も、あれほどミスを指摘されて、カッカしちゃった」
「私が悪い、と思っても、つい・・・」

飛鳥
「ミスの自己点検の秘訣も教えてくれるかも」
「お局さんだって、美里さんと同じ失敗をしているかもしれない」

香苗
「煮物続きになるけれど」
「金目鯛の煮付けを定食で食べる?」

美里は、目が輝いている。
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