ザッハ・トルテ

文字数 1,861文字

 世界でもっとも有名だと言われているチョコレートケーキ
 ウィーンが世界に誇る銘菓
 それが――Sachertorte(ザッハトルテ)(正しくはザッハートルテ?)

 オーストリアのウィーンといえば音楽の都
 ただ、「会議は踊る、されど進まず」という有名な言葉があるように、もとはある種の皮肉だったとか(現実逃避の最良手段である音楽をなによりも必要とした都)
 事実、音楽の都と称されるようになったのは高尚なクラシックではなく、ダンス音楽のワルツのおかげ
 時代でいうと19世紀
 ウィーンの人々はいついかなる時もワルツを踊っていた
 
 そう、ヨーロッパ諸国の代表が集った国際会議(ウィーン会議)の最中でも――
 
 結果、上記の名言が生まれる羽目になるものの、ワルツはヨーロッパ中に広まっていきました
 そして今日でも、ワルツは世界中で踊られています
 世界中の名家の令嬢が集うとされている、パリのデビュタント・ボールでも――

 閑話休題、ケーキについて
 
 時代が時代ですので、構造としては非常に簡単です
 全体をチョコレートの糖衣(グラサージュ)で覆った形で、中はチョコレートを使ったバターケーキ+あんず(アプリコット)ジャム
 このグラサージュは砂糖+水(シロップ)とチョコレートだけで作るので、まぁ非常に甘いです
 あの艶と粘度を出すために、シロップは107~113℃のモノを使いますので、噛むと

、と感じられるほどの砂糖
 甘いのは製作者もわかっていたようで、無糖の生クリームを添えて供されます

 さて、このザッハトルテですが、誕生には諸説あります
 
 1つはウィーン会議の折に、宰相のメッテルニヒの命を受けた菓子職人(エドヴァルト・ザッハー)が作った
 曰く、「今まで誰も食べたことがないものを作るよう」
 
 もう1つは1832年、エドヴァルト・ザッハーの父フランツが、16歳の時に主人であるメッテルニヒに命じられて生み出した
 曰く、「飽食した貴族たちのために、驚くような新しいデザートを作れ」
 
 どちらにせよ、美食家である政治家(クレメンス・メッテルニヒ)に命じられて作ったデザートということですね
 ちなみに、国によってどっちが正しいかは分かれているみたい 
 
 これだけでも面白いのに、ザッハトルテにはまだ「甘い7年戦争」と呼ばれるエピソードがあります
 ザッハトルテの力によるものかどうかは知らないけど、エドヴァルトはホテル・ザッハーを開業していました
 ところが1934年(3代目)の頃、経営不振に陥ってしまい王室御用達のパティスリー「デメル」に援助を仰ぐことに
 その際、門外不出であってザッハトルテのレシピを明け渡してしまう羽目になります
 そうして、ザッハトルテは洋菓子店「デメル」でも製造・販売されるようになりました
 が、問題はそれだけに留まらず
 なんと、「ウィーンの菓子店」なる本に作り方が掲載されてしまったのです

 これに対して、ホテル側は裁判を起こしました
 いわゆる、商標権の差し止めというやつです 
 ただ時代は1955年と、第二次世界大戦を間に挟んでおりますので、関係者はもれなく亡くなっております
 この裁判、「甘い7年戦争」と呼ばれるだけあって、決着が付いたのは1962年
 果たして結果はというと、ホテル側は「オリジナルのザッハトルテ」デメル側は「デメルのザッハトルテ」として、双方に販売が認められました 

 基本的には一緒ですが、ほんの少しだけ違いもあります
 アプリコットジャムを塗る位置(表面or間に挟んだり)、飾りのチョコレートの形(メダル型oe三角)、生クリームが添えてなかったり(別料金)……etc.

 まぁ、当然ですが日本で食べられるのは支店がある「デメル」のザッハトルテだけです
 チョコの形は三角、ジャムは表面にだけ、生クリームは無し
 百貨店やデパートにありますので、是非とも購入してみてください

 ちなみに、好き嫌いは分かれます
 外国受けがいいだけあって、このケーキかなり重厚です
 ケーキとフォンダンはすっごく甘いですし、ジャムはとっても酸っぱくて……だからこそ、噛みしめていく度に調和していくんですけどね

 最後に紅茶とのマリアージュですが……
 ウィーンではコーヒーのほうが主流(コーヒーの消費量が世界でも上位)らしいので、最高の組み合わせはコーヒーなのかもしれません

 それでも、紅茶が決して合わない訳ではありませんので自分なりに最適な組み合わせを見つけてみてください
 私の場合はウダプセラワやアフタヌーンブレンドのストレート
 前者はウバより大人しい爽快な渋み、後者はダージリンより大人しい刺激的な渋み
 その絶妙な大人しさが甘くて濃厚なチョコレートに最適なんです
 
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