21 ルソー『社会契約論』(1)

文字数 2,460文字

さて、今回はジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)の『社会契約論』(1762)

ホッブズとロックはよく似ている。

ルソーも似ているといえば似ているんだが、同じ社会契約論の一派だし・・・・・・

でもね、違うといえばかなり違う。

ていうか、わかりづらい・・・・・・

まず、政治的共同体が樹立される前の、いわゆる自然状態について、ルソーはどのようにイメージしていたか?

ちょっと横着して、重田園江さんの『社会契約論』(ちくま新書、2013)から孫引きしちゃいます

【『不平等起源論』でルソーは、自然状態について印象深い描写をしている。自然状態で人はひとりぼっちだというのだ。しかもそれは寂しい孤独の状態ではなく、基本的には満ち足りたものだ。自然状態の人は、自分を慈しむ自愛心と、動物にも見られる優しい思いやりの感情を持っている。そして、人を羨むことも妬むこともなく素朴かつ質素に暮らしている】[重田:P161]

ルソーの自伝的作品『告白』を一読すればバッキリするんだが、ルソーのメンタリティは、言ってしまえば孤独を愛する人間嫌い、なんだね。

ぼっちな自然状態を肯定的に評する姿勢には、ルソーの嗜好が露骨にでている

ちなみに、批評家の東浩紀さんは『一般意思2.0』(講談社文庫、2015)の中で、次のように評している。

【ルソーは、一般に政治思想家や社会思想家といった言葉で想像されるものとはかなり懸け離れた、現代風に言えばじつに「オタク」くさい性格の書き手だったのである。彼は、人間嫌いで、ひきこもりで、ロマンティックで繊細で、いささか被害妄想気味で、そして楽譜を写したり恋愛小説を書いたりして生活していた。『社会契約論』は、そのようなじつに弱い人間が記した理想社会論だった】[P69]

あ、なんかオレ、ルソーに共感してきた~
そう?

ルソーの自然状態はわりと牧歌的なんだが、自然状態とは無法状態でもあるがゆえ、遅かれ早かれ厄介なことに巻き込まれるようになる。

引用しよう

【各個人が自然状態にとどまろうとして用いる力よりも、それにさからって自然状態のなかでの人間の自己保存を妨げる障害のほうが優勢となる時点まで、人間が到達した、と想定してみよう。そのとき、この原始状態はもはや存続しえなくなる。だから、もし生存様式を変えないなら、人類は滅びるだろう】[ルソー:P26]
要するに、各人が相互不介入を貫き、めいめい勝手に生きていられたらイイんだが、たとえば横からおかしなヤツがやってきてね、攪乱してくると、暴れると、平和的共存は破綻する、ってわけだ
そういうヤツは必ず発生するでしょうね
所詮は人間の世界だ、そうなる

そこで、結局はホッブズやロックとよく似た発想でね、各人は一致団結し、共同防衛に当たるわけだよ。

引用しよう

【「各構成員の身体と財産とを、共同の力のすべてを挙げて防衛し保護する結社形態を発見すること。そして、この結社形態は、それを通して各人がすべての人と結びつきながら、しかも自分自身にしか服従せず、以前と同じように自由なままでいられる形態であること」。これこそ根本的な問題であり、社会契約がそれに解決を与える】[ルソー:P27]
ここで、そのような結社、共同防衛のための政治的共同体を樹立するために、【各構成員は自分の持つすべての権利とともに自分を共同体全体に完全に譲渡する】[ルソー:P28]ことが求められる
ン? なんか怪しい匂いがしますね・・・・・・

うん、そうなんだ。

繰り返しになるけど、【各構成員は自分の持つすべての権利とともに自分を共同体全体に完全に譲渡する】[ルソー:P28]の一文がね、長らく批判にさらされてきた部分でもある。

要するに、全体主義っぽいってね

なるほど・・・・・・

ここまでを簡単に整理しておく。

本来、自然状態は牧歌的なものだ。

しかし、それをかき乱すバカがでてくる。

そんなバカ野郎から身を守るため、みんなで一致団結する。

共同防衛のための結社をつくる

そのとき、いわば結社への入会条件として、権利の全面譲渡が求められる、ってわけだ
全面譲渡、ですか・・・・・・

とはいえ、この全面譲渡には、あまり過剰な読み込みをしないほうがいいんだよ。

なぜ全面譲渡が求められるのかというと、一つには、Aさんはこの部分だけ、Bさんはこの部分まで、といった具合にね、バラバラだと収拾がつかなくなり、とても不平等だ、ということがある。

また、全面譲渡でない、部分的譲渡になればなるほど、それだけ結社の威力が減じることになるだろう

でしょうね
そして、ここが肝心なんだが、全面譲渡する相手はね、特定の人間ではないんだよ。支配者じゃないし、独裁者でもない。いわば、自分自身なんだよ
ふぁい?
じつはここが、ルソー思想のね、難解なところだ

共同防衛のためにね、各人の権利をさ、ある男に全面譲渡したとする。

その男がトンデモなヤツだった場合、専制君主となり、独裁を敷くかもしれない。

そうなると、まさに全体主義っぽくなる、確かに。

だからね、後世の人たちはさ、ルソーがいう全面譲渡に批判的だった。

けどね、それは完全にミスリーディングなんだよ

全面譲渡する相手は人間じゃない。

結論を先取りするなら、一般意志なんだよ。

でね、この一般意志が独裁に陥ることは理論的にありえない。

このあと説明するが、独裁とは、人間が、人間の特殊意志がするものだからね

一般意思?

でね、その一般意志には自分自身が含まれるんだ。

ルソーは言う。【われわれのおのおのは、身体とすべての能力を共同のものとして、一般意志の最高の指揮のもとに置く。それに応じて、われわれは、団体のなかでの各構成員を、分割不可能な全体の部分として受け入れる】[ルソー:P29]

さーぱり、わかりません
順番にいきましょー

[引用文献・参考文献]

・ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』作田啓一訳、白水社、2010

・重田園江『社会契約論 ― ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』ちくま新書、2013

・東浩紀『一般意思2.0』講談社文庫、2015

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登場人物紹介

デンケンさん(49)・・・・・・仙人のごとく在野に生きることを愛する遊牧民的活字ドランカー。かつては大学院にいたり教壇に立ったりしていたが、その都度その都度関心があることだけを考えていきたい、という専門性を磨こうとしないスタンス、及び『老子』の(悪)影響があり、アカデミズムを避けた・・・・・・がゆえに一介のサラリーマンである(薄給のため独身、おそらく生涯未婚)。

朝倉恭平(30)・・・・・・ご近所の鷺ノ森市文化創造センターに契約職員として勤務。

(チャットノベル『毒男女ぉパラダイス!!』の登場人物・朝倉5年後の姿)

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