【昔話】 ✿ 西方ヒストリア8

エピソード文字数 1,452文字

蝉の音が、小川のせせらぎとともに、里のを彩る。


川辺の小さな家から、子どもや大人の賑やかな声が聞こえていた。

本日は「水渇丸(すいかつがん」について、お話しいたしまする

注目を浴びるのは、忍術の講師、忠平(ただひら)だ。


お殿様からこの家を住まいとして与えられた忠平は「忍塾」を開いて教鞭を振るっていた。

この薬は、喉が渇いたときに服用すれば、喉の渇きが止まるものでございます。


梅を使うので酸味がありますが…

忠平は「効能」と「材料」について話したあと、全員の前でそれをつくってみせた。


大人も子どもも興味津々だ。


作り方を披露したあとは、先につくっておいたものを、全員に味見させる。

これはすごい。梅の味がする、たちまち唾液があふれてきた。


水をすぐに飲めない時には重宝するなぁ

水をくみにいくのも、大変だからな。

この暑さだと、少し山道を歩いただけで、喉がカラッカラになっちまう


かなり酸っぱいけど、渇きが止まる。いいなぁ、これ!

賊たちも、忠平の「塾」に参加している。


お殿様は、彼らを里人として迎えたのだ。


彼らは今、村の者に混ざって農作業に精を出し、正しい猟についても教わっていた。

たくさん作りましたので、どうぞお持ち帰りください。

忠平のつくった「水渇丸すいかつがん」に、村人が「わっ」とむらがる。

おまえ、もう5個もとったやろ。取り過ぎや
まだ3個や!

み、みなさん、押さないで! わっ、わぁぁ、つぶれる!!

忠平は、やっとのことで人の波から出た。


すると村の子どもたちが、忠平のもとへやってきた。

せんせーい、手裏剣飛ばしてみたーい!
ダメだよ。手裏剣は「剣」だから、子どもは使えないんだよ
大人だけかぁ・・・
子ども達は、手裏剣に興味津々だ。
では、これをさしあげましょう。

忠平は、書き損じの半紙を取ると、手裏剣の形に折って渡した。


子どもたちに、塾で習字を教えているのだ。

すごい、すごーい! 今、どうやって折ったの!? 教えて
僕にも、紙ちょーだい!
では、一緒に折ってみましょう

子ども達は、お手製の手裏剣を使って、遊び始めた。


子ども達の間で「手裏剣合戦」なるものがはやるのは、もう少し先のお話だ。


村人が家路に就いたあと。

忠平は一人縁側にすわり、夕焼けに染まる西の空をあおいだ。


すると玄関の方から、人の話し声が聞こえた。

忠平、おるか? わしじゃ!
お、お殿様、どうしてこちらへ?

お忍びじゃ。


黒木もおるぞ

殿がどうしても、塾の様子が見たいとおっしゃってな。


皆、もう帰ったのか?

はい、つい先程…。


どうぞお上がりください。川辺は涼しぅございます。

忠平は、二人を中へお通しした。


塾の縁側から、川のせせらぎが聞こえてくる。

おや。忠平、これはなんじゃ?
先ほど、子どもたちに紙手裏剣の折り方を教えていたのでございます
お殿様は、紙手裏剣を手に取り、まじまじと見ると、

わしも折ってみたい! 忠平、手本を見せてくれ。


そうだ、黒木もいっしょに折ろう!

えっ、わたくしも・・・?
男三人で、もくもくと折り紙をすることになった。
見よ! 三つもできたぞ!
それがしは、まだ一つも・・・

どれ、かしてみよ。こう折るのじゃ

すぐに覚えたお殿様が、教える側に回る。

せっかくだから、一つ飛ばしてみたいのぅ。


忠平、どうやって飛ばすのじゃ? こうか? それともこうか?

夕日が差し込む夏の縁側に、穏やかな時間が流れていた。
殿。忠平にお話があったのでは・・・?

そうであった!


忠平、おぬしに頼み事があったのじゃ。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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