第4話

文字数 2,254文字

 車の音がうるさいので、少し離れたところに車を停め、二人は歩いて家に向かって歩いた

 「悪いな、こうなると分かってたらあんなにいじらなかったんだけど…」

 とうつむき加減の永嗣を見て

 「こうやって二人で歩くのも楽しいよ」

 笑顔で永嗣の顔を覗き込む楓花を見て、ふっと顔を上げ微笑んだ

 そして家に着いた。楓花は少し寂しそうな顔をしたが、永嗣はそれに気づき

 「またドライブ行こうな、食事でもいいし。楓花が楽しめる場所探しとく」

 その言葉に心が温かくなり、元気を取り戻した

 「じゃあ、またな」

 「うん、おやすみなさい」

 そしてまた二人ともお互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた

 楓花は温かい気持ちのまま家へ入った

 「ただいま」

 そこへリビングから母親が出てきた

 「遅かったわね、心配したのよ」

 「ごめんなさい…」

 さっきまでの楽しいひと時から現実に戻され、楓花は肩を落とした

 「秋穂ちゃんから連絡があったから良かったけど…今度は気を付けてね!」

 秋穂が…

 散々文句を言い、出かけることを快く思っていなかった様子だったので、驚きを隠せなかった。そして秋穂の心遣いに感謝した

 「…ねぇ、貴方何か匂いがするんだけど…」

 「え?!」

 楓花は腕を鼻に近づけ匂いを嗅いだ。すると永嗣のカーコロンの残り香に気づいた

 「あ、あの…秋穂が香水をつけてたの、多分それだと思う…」

 と、咄嗟(とっさ)の嘘をついた

 「秋穂ちゃん貴方と違って大人だからね…体調は大丈夫?」

 「うん、大丈夫」

 「じゃあお風呂に入りなさい」

 「はい」

 母親が見えなくなるまで落ち着いて歩いていたが、だんだんステップを踏むような軽快な足取りになった

 母親は秋穂の事を大人と言った、けど楓花は滅多にしない嘘をついたことが大人になった気がしていた

 そしてお風呂の中でも先ほどの楽しい時間に酔いしれていた


 永嗣は鼻歌を歌いながら勤めているバーに入った

 小さい店だけどいつも賑わいがある。だが、今は店で流れている音楽とダーツの機械音が響いているだけだった

 ダーツをしている男、肩くらいまである黒髪を一本に束ね、シャツやパンツ、靴まで黒ずくめである。見たからに普通とは思えない。永嗣とはまた違った異質なものを感じる

 周りにはその男の連れらしき男たちが数名いた

 その男がドアの開閉の度に鳴るベルの音に気付き、永嗣の方を振り返った

 「これはどうも、永嗣さん」

 「…サトシ…」

 さっきまで楓花に優しい顔をしていたのが、ぐっと目に力が入った。サトシがいたことで客が散ったんだろうと察知した

 「何かいいことありました?鼻歌、聞いたことないですよ」

 何かを探るような笑みを浮かべるサトシ。それを感じ

 「…別に」

 と普段通りカウンターに入った

 「この前騒ぎがありましたね、永嗣さんが制止したと聞いて…おれも止めに入ろうとしたんですけどね」

 「…問題ない、ただのいざこざだ」

 「おいっコラ!サトシさんに向かって何だ?その態度は!」

 血の気が多い1人の連れが永嗣にたて突いた。その瞬間サトシは顔色を変えず、テーブルに置かれたビール瓶を持つと、その男の頭めがけて振り下ろした。男は頭から血を流し暴れていると、サトシはその男の髪を掴んで引っ張り

 「永嗣さんに向かってその態度はなんだ?」

 と狂気の表情で男を睨んだ

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 サトシが男に蹴りを入れようとした時

 「やめろ、店を汚すな。ほかの客に迷惑だ」

 と永嗣はグラスを磨きつつドスの利いた声で制止した

 「…すいません、最近の若いやつは礼儀を知らないもので…。皆さんお騒がせしました。…行くぞ!」

 と連れと一緒に外へ出た

 「…おい」

 「はいっ」

 「永嗣の身辺あらえ…それと、こいつどっかに埋めてしまえ」

 と店の前をちらっと見た後、連れが開けた後部座席に乗り込んだ


 「………」

 永嗣は手をぐっと握り、怒りで肩を震わせていた

 「大丈夫?永嗣ちゃん…顔色変よ?」

 この店のオーナーでありマスターが話しかけてきた。髪は短くシルバーに染めている。お姉言葉だが体格はがっちりしている

 「…ごめんマスター。いつも迷惑ばっかで」

 「いいのよ、こういう店だもの、争いも多くなるわ。まぁ、ガラが悪いのは嫌だけどね。それより…」

 「…何?」

 「楓花ちゃん!どうだったのぉ?」

 さっきまでの怖い顔から一転、顔がみるみる紅潮していくのを見て

 「あら?仲良くなったのね?良かったわ~!永嗣ちゃん純情ボーイだから心配だったのよ~!」

 「…でも」

 「ん?」

 「こんなおれといて大丈夫かなって心配で…」

 うなだれている永嗣を見てマスターは

 「大丈夫!永嗣ちゃんはいい子だから楓花ちゃんもきっと気づくはずよ!自信を持って!」

 それを聞き永嗣は照れ臭そうに笑った

 「貴方のお父様から預かっている大事な子ですもの!これからも応援するわ!そんなことより、ママって言ってよぉ」

 「いや、マスターでしょ?」

 永嗣はマスターをからかいつつ、楓花との時間を思い出していた
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