第122話 案内
文字数 2,349文字
「礼なんて・・・ガラルドがあそこまで追い込まれる前に何かできたかもしれないと思うと反省しかない」
ユウトは自身がガラルドを死の間際まで追い込んでしまったことを想い出して吊り下げた左腕が傷んだ気がする。最後の一撃の瞬間は殺意を持ってガラルドに挑んだことは確かだった。誰かに対して明確な殺意を持ってその行為に及んだ事実に戸惑っているのかもしれないと思い返す。それと同時に命を取り留めることができた現実に安心もした。
ユウトの様子を横目に見たヨーレンが語り掛ける。
「そう悔やむものでもないよ。立会人を請け負った身として断言するけれど、あの決闘でガラルド隊長を殺してしまったとしてもユウトは罪に問われない。それが決闘という規則だからね」
「その通りだ。ガラルドのことだ、私がいれば決闘の規則を破ってでも止めに入ることがわかっていたから昨日、無理して決闘を行った可能性すらある」
ヨーレンとレイノスに緊張感のない温和な声を掛けられ、ユウトは重く感じていた後悔の圧が少し軽くなったような気がした。
レイノスはヨーレンに向き直って語り始める。
「ではヨーレン。一度ガラルドの様子を見ておきたいのだが今からいいだろうか。明日から多忙になるだろうし容態だけでも確認しておきたい」
そう言いながらレイノスは椅子から立ち上がった。
「はい。ではご一緒に病院へ向かいます。
・・・あー、それで、ユウト一つ頼まれてくれないか」
ヨーレンはそう言いながらとても気まずそうな表情でユウトの方を向いた。
「さっきディゼルが言っていたカーレンのことなんだけど、私の工房まで案内してくれないだろうか?」
ユウトは恥ずかしそうで申し訳なさそうなヨーレンの表情に苦笑する。ため息を一つついた。
「わかった。オレが案内するよ。
でもなヨーレン。御節介だとわかっているけど言わせてくれ。
一度しっかり二人だけで話しをした方がいい。騎士団もこの戦いに巻き込むことになるからには何が起こるかわからない。まだ時間はあるだろ。何かの問題を解決できるわけじゃないと思うけど解決しようとした事実とか、姿勢は必ず残るはずだ」
ヨーレンはユウトの言葉にうつむきながら黙って聞き入る。そして口を開いた。
「ありがとうユウト。そろそろ私も覚悟を決めないといけない頃なんだろう」
ヨーレンはそう言って先に席を立つと出口の方へ向かい始める。ユウトはいらぬ説教をしてしまったかも内心で後悔を覚えながら席を立ってヨーレンに続いた。
ヨーレンの後をたどりユウトは役所の中央出入り口にたどり着く。壁沿いの長椅子にマントに身を包んだカーレンが座っていることにユウトは気づいた。
カーレンもヨーレンに気が付いたらしく立ち上がって近づいてくる。そしてヨーレンとカーレンはいくつか言葉を交わしていた。ユウトが見る限り険悪な雰囲気はないが終始ヨーレンが押され気味に見て取れる。ヨーレンは申し訳なさそうにユウトに目配せして先を行ってしまったレイノスを小走りで追いかけその場から離脱した。
残されたカーレンは不機嫌そうな表情を浮かべてヨーレンの後ろ姿を眺めてる。ユウトはぐっと腹に力を込めて気を張るとカーレンに声を掛けた。
「やぁ、カーレン。大橋砦以来かな。えーっと、ユウトだ。ヨーレンに工房まで案内するように頼まれている」
「あ。どっどうも。お久しぶりです。よろしくお願いします」
横からユウトは声を掛け、ユウトに気づいたカーレンはヨーレンと話している時とは違った固さのある声で返事をすると大きく一礼する。二つに結ばれた髪が大きく揺れた。それと同時にユウトは匂いを感じて上がってくるものを感じたがすぐにゆっくりと息を吐いて精神を統一させ、心身を落ち着かせる。
「それじゃあ、とりあえず出発しようか」
ユウトはそう言いながらマントのフードをかぶり、出口へ歩きだした。
ユウトの後ろにはヴァルが追従しそのさらに後ろをカーレンは着いてきている。人通りの多い乗り入れ口周辺ではユウト達一行は目立ち、周辺の人々からの視線を集めた。
しばらく歩いて支道に入っていくと人の数は減って落ち着きが出てくる。ユウトは人通りのないくなった歩道でふと立ち止まって後ろを振り向きカーレンをを見た。
「人の目を集めてしまってすまない。大丈夫だったかな?」
カーレンがついてきていることはその気配をユウトは感じていたため心配はない。しかし同行することで好奇の目で見られてしまうカーレンに対して申し訳なさを感じていた。
「いえ、ああいった空気には慣れているので気にしないでください。あの、それでどうしても気になってしまうのですが・・・」
カーレンは急に緊張し始める。ユウトは自身が何か不注意を犯してしまったのではないかと不安になって自身の全身を見渡したが見当がつかなかった。
「す、すまない。何が気になる?」
「その、連れている魔物とか急いで出発してしまったディゼル副団長の理由とか、ですね。私、団内でも一番年齢が低いし、信用されてないのかなって・・・気がして」
そう言ってカーレンはうつむいてしまう。思いもしなかった展開にユウトの脳内は混乱してしまい、なんと声を掛ければいいのかわからず硬直してしまった。
その様子を見ていたセブルはユウトのフードから離れユウトとカーレンの間に位置していたヴァルの天辺に飛び降りる。そこからカーレンを見上げながら声を上げた。
「なーぅなぅうなー(ねぇカーレン、ボクはセブルだ。その気持ちはわかる。ボクも何かと蚊帳の外に追いやられてきたからね)」
セブルはカーレンを真っすぐと見つめて真摯に声を掛ける。
「え?このネコテン、何か言ってる?」
うつむいた視線に写り込んだセブルの声にカーレンの視線は引っ張られていた。
ユウトは自身がガラルドを死の間際まで追い込んでしまったことを想い出して吊り下げた左腕が傷んだ気がする。最後の一撃の瞬間は殺意を持ってガラルドに挑んだことは確かだった。誰かに対して明確な殺意を持ってその行為に及んだ事実に戸惑っているのかもしれないと思い返す。それと同時に命を取り留めることができた現実に安心もした。
ユウトの様子を横目に見たヨーレンが語り掛ける。
「そう悔やむものでもないよ。立会人を請け負った身として断言するけれど、あの決闘でガラルド隊長を殺してしまったとしてもユウトは罪に問われない。それが決闘という規則だからね」
「その通りだ。ガラルドのことだ、私がいれば決闘の規則を破ってでも止めに入ることがわかっていたから昨日、無理して決闘を行った可能性すらある」
ヨーレンとレイノスに緊張感のない温和な声を掛けられ、ユウトは重く感じていた後悔の圧が少し軽くなったような気がした。
レイノスはヨーレンに向き直って語り始める。
「ではヨーレン。一度ガラルドの様子を見ておきたいのだが今からいいだろうか。明日から多忙になるだろうし容態だけでも確認しておきたい」
そう言いながらレイノスは椅子から立ち上がった。
「はい。ではご一緒に病院へ向かいます。
・・・あー、それで、ユウト一つ頼まれてくれないか」
ヨーレンはそう言いながらとても気まずそうな表情でユウトの方を向いた。
「さっきディゼルが言っていたカーレンのことなんだけど、私の工房まで案内してくれないだろうか?」
ユウトは恥ずかしそうで申し訳なさそうなヨーレンの表情に苦笑する。ため息を一つついた。
「わかった。オレが案内するよ。
でもなヨーレン。御節介だとわかっているけど言わせてくれ。
一度しっかり二人だけで話しをした方がいい。騎士団もこの戦いに巻き込むことになるからには何が起こるかわからない。まだ時間はあるだろ。何かの問題を解決できるわけじゃないと思うけど解決しようとした事実とか、姿勢は必ず残るはずだ」
ヨーレンはユウトの言葉にうつむきながら黙って聞き入る。そして口を開いた。
「ありがとうユウト。そろそろ私も覚悟を決めないといけない頃なんだろう」
ヨーレンはそう言って先に席を立つと出口の方へ向かい始める。ユウトはいらぬ説教をしてしまったかも内心で後悔を覚えながら席を立ってヨーレンに続いた。
ヨーレンの後をたどりユウトは役所の中央出入り口にたどり着く。壁沿いの長椅子にマントに身を包んだカーレンが座っていることにユウトは気づいた。
カーレンもヨーレンに気が付いたらしく立ち上がって近づいてくる。そしてヨーレンとカーレンはいくつか言葉を交わしていた。ユウトが見る限り険悪な雰囲気はないが終始ヨーレンが押され気味に見て取れる。ヨーレンは申し訳なさそうにユウトに目配せして先を行ってしまったレイノスを小走りで追いかけその場から離脱した。
残されたカーレンは不機嫌そうな表情を浮かべてヨーレンの後ろ姿を眺めてる。ユウトはぐっと腹に力を込めて気を張るとカーレンに声を掛けた。
「やぁ、カーレン。大橋砦以来かな。えーっと、ユウトだ。ヨーレンに工房まで案内するように頼まれている」
「あ。どっどうも。お久しぶりです。よろしくお願いします」
横からユウトは声を掛け、ユウトに気づいたカーレンはヨーレンと話している時とは違った固さのある声で返事をすると大きく一礼する。二つに結ばれた髪が大きく揺れた。それと同時にユウトは匂いを感じて上がってくるものを感じたがすぐにゆっくりと息を吐いて精神を統一させ、心身を落ち着かせる。
「それじゃあ、とりあえず出発しようか」
ユウトはそう言いながらマントのフードをかぶり、出口へ歩きだした。
ユウトの後ろにはヴァルが追従しそのさらに後ろをカーレンは着いてきている。人通りの多い乗り入れ口周辺ではユウト達一行は目立ち、周辺の人々からの視線を集めた。
しばらく歩いて支道に入っていくと人の数は減って落ち着きが出てくる。ユウトは人通りのないくなった歩道でふと立ち止まって後ろを振り向きカーレンをを見た。
「人の目を集めてしまってすまない。大丈夫だったかな?」
カーレンがついてきていることはその気配をユウトは感じていたため心配はない。しかし同行することで好奇の目で見られてしまうカーレンに対して申し訳なさを感じていた。
「いえ、ああいった空気には慣れているので気にしないでください。あの、それでどうしても気になってしまうのですが・・・」
カーレンは急に緊張し始める。ユウトは自身が何か不注意を犯してしまったのではないかと不安になって自身の全身を見渡したが見当がつかなかった。
「す、すまない。何が気になる?」
「その、連れている魔物とか急いで出発してしまったディゼル副団長の理由とか、ですね。私、団内でも一番年齢が低いし、信用されてないのかなって・・・気がして」
そう言ってカーレンはうつむいてしまう。思いもしなかった展開にユウトの脳内は混乱してしまい、なんと声を掛ければいいのかわからず硬直してしまった。
その様子を見ていたセブルはユウトのフードから離れユウトとカーレンの間に位置していたヴァルの天辺に飛び降りる。そこからカーレンを見上げながら声を上げた。
「なーぅなぅうなー(ねぇカーレン、ボクはセブルだ。その気持ちはわかる。ボクも何かと蚊帳の外に追いやられてきたからね)」
セブルはカーレンを真っすぐと見つめて真摯に声を掛ける。
「え?このネコテン、何か言ってる?」
うつむいた視線に写り込んだセブルの声にカーレンの視線は引っ張られていた。