2.小梅、浩太がワイロを払うのに、待ったをかける

文字数 1,318文字

美鈴が小梅を訪ねてきた翌日の夜、ひと気の絶えた、大道具倉庫の中。


浩太とアユがヒソヒソ話をしている。

お金は、持って来ましたか?
半分の5万クララが、やっとです。もう少し、待ってもらえませんか。

あら、『浦島太郎』を演じるのは、あさってですよね。もう、お待ちできませんね。

なんでしたら、私が、お貸ししましょうか?

あなたは、私のタイプですから、利息は、月30パーセントに、おまけしておきます。

月30パーセントの利息だなんて、そんな、無茶苦茶な・・・
あなたは、「浦島太郎」役で、成功しなくて、いいのですか?

『桃太郎』、『一寸法師』、『聞き耳頭巾』と、重要な昔話を3つも続けて成立させて、勢いに乗っているのですよ。ここで、『浦島太郎』を成立させたら、大スターの仲間入りです。

でも、ここで、失敗したら、また、冴えない脇役生活に逆戻りかもしれません。

ボクは、ここで失敗するわけには、いかない。

ここで、成功して、ビッグになって、ボクをバカにしてた連中を、見返してやるんだ。

では、私から、お金を借りるしか、ないのではありませんか?
暗がりから、突然、小梅が姿を現す。
アユちゃん、ちょっと見ない間に、ずいぶん、ワルになったね。

でも、あんたには、こんな大それたことを、思いつく度胸は、ない。

いったい、誰の手先になってるんだい?

お久しぶりです、小梅先輩。こんな所で、何をしてらっしゃるのですか?
小梅、手元のスマホをかざしてみせる。



あんた達が話してるのを、撮影させてもらった。

この画像が、出るところに出たら、どういうことに、なるかな?

その子からワイロをむしり取るのを、やめな。

あはは。

「出るところに出す」って、どこに持ち込む気ですか?

監査部ですか?地球人と合同の「昔話成立審査会」ですか?

どこに持ってっても、ムダですよ。先輩が、暗黒宇宙に飛ばされるだけのことです。

おエライさんに持ち込もうなんて、考えちゃいないよ。

昼食時間に、社食のスクリーンで、みんなに、見せるのさ。あたしが、娯楽委員会の委員長だって、知らなかった?

あんたが、みんなから、総スカン食うところを見るのが、楽しみだよ。

そんなことしたら、先輩だって、タダでは、済みませんよ。

私たちの味方だって、大勢、いるんですから!

そうだろうねぇ・・・

お互いにダメージを受けるってわけだ。

でも、あんたが、この坊やからワイロを取り立てるのを、止めれば、あんたたちも、あたしも、傷つかない。それを考えたら、10万クララのもうけを失うくらい、安いもんだと思うよ。

チッ、余計な邪魔が入った。

そこの坊や、君が『浦島太郎』でしくじって、スターへの道が閉ざされたら、このおせっかいなオバチャンのせいだから、オバチャンを恨むんだね。

おっと、待った。

今度の『浦島太郎』が不成立になって、それが、この坊やのせいにされたら、そん時も、あたしは、この映像を流すからね。

あんたのボスに言っときな。今度の『浦島太郎』は、必ず、成立させろって。そして、二度と、この坊やに手を出すなって。

小梅先輩、今日のところは、先輩の顔を立てておきますが、このまま、タダですむとは、思わない方がいいですよ。
あんたたちが、どんな汚い手を使ってくるか、楽しみにしてるわよ。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する、日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることも、ある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短期で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に、成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしている。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手を、ずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる、魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロはキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを、生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

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