聖刀堅陣
文字数 2,586文字
ザクロと神沢優、メガネ隊のメンバー11人が刀を地面に突き刺して守備陣を敷いた。
<聖刀堅陣>
数分だけ守備力が飛躍的に高まる防御堅陣である。
が、これを使うと当然、3分間は<殲滅刀技>が使えなくなる。
メガネ隊の全員がメガネ隊長の一撃に賭けたのだ。
メガネ君が悲壮な言葉を吐いた。
だが、選択肢はない。
すでに、ザクロ以下メガネ隊のメンバー11人は<聖刀堅陣>を展開していた。
メガネ君の言葉が合図だったように、スケルトン中華ロボのレーザーブレード千本の攻撃が来た。
光が煌めき、凄まじい圧力がメガネ隊の≪ボトムストライカー≫に襲いかかる。
しばらく、<聖刀堅陣>のバリアがその攻撃を凌ぐ。
火花が散って、バリアが押されて変形していく。
だが、何とか耐えていた。
が、一分ほど経った頃、最初の綻びがでる。
メガネ隊の新人ハネケのバリアの変形が限界にきて亀裂が入り、その隙間からハネケ機にレーザーブレードが直撃する。
ハネケ機はしばらく耐えていたが、レーザーブレードの連打で<蕨手刀>が地面から抜けて後方に吹っ飛ばされた。
だが、ザクロが巧みにバリアを修復し、飛ばされたハネケは、もう一度、自分の位置に戻って<聖刀堅陣>を回復させる。
それから、他の隊員にも同じようなことが起こり、左右にいるザクロと神沢優がバリアをカバーし、何とか回復させた。
二分経過。
その頃には、バリアの隙間から隊員のほとんどがレーザーブレードの直撃を受け、機体の損傷が激しくなっていた。
だが、何度、吹っ飛ばされても、メガネ隊の隊員たちは持ち場に戻り耐え抜いていた。
神沢隊の援護射撃により100万HPぐらいは削られていたが、まだ、400万HP足りない。
メガネは祈るような気持ちでつぶやいた。
かつての<スケルトン中華ロボ討伐戦>において敗北したギルド員の千人は、あまりの惨劇さに、そのまま<刀剣ロボットバトルパラダイス>をログアウトして帰ってこなかったものが多数いた。
飛礼隊の隊長、飛礼もまた、そんなひとりだった。
メガネやザクロなど飛礼隊の生き残りのメンバーは、スケルトン中華ロボの再討伐に備えて、一年間かけて聖刀を集め、作戦を練り、飛礼がいつか帰ってきてくれることを待ちわびていた。
結局、飛礼は帰っては来なかったが、この一年間はこの戦いにおいて十分に生かされていた。
だが、それも、この戦いに勝ったればこそだ。
全滅してしまえば、全てが無になってしまう。
しかも、これはゲームではなく、現実の戦いである。
すでに神沢隊のメンバーは11人ほど失われている。
メガネはふと、正気に返ったように、千手観音モードのスケルトン中華ロボを見上げた。
それがいけなかったのか、突然、手足が震えだす。
スケルトン中華ロボの惨劇の記憶、恐怖が彼を襲う。
やはり、俺たちは勝てないのか?
ここで、みんな死んでしまうのか?
死の恐怖に包まれて、弱気な気持ちが強くなってくる。
この一年間の僕たちの努力や戦いは無駄だったのか?
いや、そうじゃないはずだ。
無駄ではないはずだ。
メガネが叫ぶのと、<聖刀堅陣>の限界がきてメガネ隊のメンバーが吹っ飛ばされるのはほぼ、同時だった。
よく耐えてくれた、みんな。
七つの水龍がメガネの<水龍剣>から放たれ、スケルトン中華ロボに直撃し破壊する。
クリティカルヒットではないが、スケルトン中華ロボの身体に亀裂が入り崩壊するかに思われた。
だが、無情にもメガネ機のモニターには、スケルトン中華ロボの残HPは200万と表示されていた。
メガネ隊のメンバーは<聖刀堅陣>を使用してしまったので、殲滅刀技は使えない。
神沢隊の援護射撃では間に合わない。
殲滅刀技を放って硬直しているメガネ機に、スケルトン中華ロボのレーザーブレードが死神の鎌のように襲いかかる。
誰かの声が心に響いた。
織田信長の聖刀がスケルトン中華ロボのレーザーブレードを全部、受け止めていた。
それにしても、巨大な聖刀である。
<零式妄想式超光速120Dプリンター>が高速駆動し、さらに、その聖刀は徐々に大きくなっていく。
信長は巨大化した聖刀<へし切長谷部>に軽く力を込めた。
その切れ味は尋常ではなく、スケルトン中華ロボの千本のアームが全て両断されて吹っ飛ぶ。
<へし切長谷部>といえば、信長が無礼を働いた茶坊主を手打ちにしようとして、逃げ込んだ台所の膳棚ごと一刀両断してしまったというエピソードをもつ。へし切とは押し切という意味でそれほど切れ味が凄かったようだ。信長の愛した三刀のうちのひとつである。
メガネ君の身体の震えが止まる。
残りHPは30万まで減っていた。
すかさず、ブレードローラーを全速駆動して突進、<水龍剣>を一閃して、スケルトン中華ロボの残りHPを全部奪った。
スケルトン中華ロボは閃光を放ちながら消滅した。
†
メガネはいつまでも泣き続けた。
何とも微笑ましい光景だと思う安倍晴明であった。
(あとがき)
メガネ君でなくて、信長無双でした。
次回は救出された明智光秀が酷い目に会うと思います。
予定は未定ですが。