第7話 四人のナイト

文字数 1,138文字

 街の中に人の気配はなく、無人のように静まっていて、ユウタは少しだけ不安になってくる。そんな気持ちに追い打ちをかけるように、突如大きな怒鳴り声が聞こえた。

「そこの小僧! 止まれ!」

 びっくりして立ち止まったユウタは、一瞬だけ思考が停止した。怒鳴られることなんて普段滅多にないものだから、「小僧」と呼ばれたのが自分であることすら、咄嗟には分からなかった。

 複数の(いなな)きと共に、ユウタはあっという間に四頭の大きな馬に囲まれていた。
馬上から代わる代わる声が降ってくる。

「なんだ、本当に小僧だな」
「丸腰じゃないか」
「見慣れない顔だ」
「何者だ?」

 そしてユウタは、見上げた四人の姿を確認すると、「えっ?」と戸惑いの声を漏らしたのだった。

「……どういうこと?」

 ユウタがよく知る人物だったのだ。いや、人物と言う表現は正しいのだろうか。
 しかし彼の緊張は、途端に緩んでいく。
なぜなら四頭の馬にまたがり、中世の鎧に身を包んでいる彼らは――――

「『いなっしー』に、『まるりん』に、『ちかぽん』に、それから『ササのすけ』じゃないか!」

 ユウタの言葉に、馬上の四人……もとい、四体は声色を緊迫したものに変えた。

「なッ⁉ なぜ我らの名を知っている?」
「え……だって」

 ユウタは困惑しながら、『いなっしー』を見つめた。定番の浴衣姿ではなく、銀色の鎧姿だったが、間違いではない。

「I市の()()()()()、いなっしーでしょ……?」
「何⁉ 私の故郷まで割れているとは!」
「何言ってるの?」

――割れているも何も、公式設定じゃないか

 四体は、大いにどよめいていた。ユウタは首を傾げる。
 彼を取り囲んだ四体は、ユウタもよく知る、ご当地()()()()()達なのだ。

 I市の特産品、梨をモチーフにした『いなっしー』は、全国的にも知名度が高い。
 ユウタの父親の勤め先があるN市の『まるりん』は、可愛らしいうさぎの姿をした、女子人気の高いキャラクターだ。
 ユウタが住むA町は地下水を売りにしていて、そんな地下に住むかっぱの妖精という設定の『ちかぽん』は、グッズ展開が豊富である。
 七夕まつりが有名な古い歴史を持つH市の『ササのすけ』は、キャラクターデザインが何度か変わっている。今ユウタの目の前にいるのは、最新の令和バージョンで間違いないだろう。

「あやしいやつッ! 捕らえろ!」
「わあ!」

 まるりんが、その白くてふわふわの腕から振り下ろしたのは、紛れもなく本物の長剣だった。刃先がギラリと光り、そこに触れた雑草の葉が、はらりと宙に舞った。

「嘘でしょ⁉」

 ユウタは馬の脚の間をかいくぐって、再び走り出した。いつの間にかあの白い犬の姿は周囲に見当たらない。

「待てー!!

 後方から蹄の音と、ゆるキャラ達のどこか間の抜けた怒号が追いかけてきた。
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