ツチノコって本当にいるんですかね

文字数 1,686文字

 翌日の放課後――。

 学校の備品室改め、地球防衛部の部室の扉を宗介は開いた。

こんにちわー。
あ、宗くん!

待ってたよ!

あれ?

ひなた先輩一人ですか?

そうだよー。

梓は委員会があるから、今日は来られないって言ってたし。

エリカっちは家の用事があるんだって。

秋ちゃん栞んは?
須藤さんはクラスが違いますし、知りませんね。

栞姉は……たぶん今日は来ないんじゃないかなぁって。

(さすがに昨日はちょいとやり過ぎたかも……)
 軽く反省する宗介だった。
そっか……みんな来ないんだぁ……。
ま、いっか!

宗くんがいるし!

(この笑顔だけ見てたらホントに可愛いんだけどなぁ……)
 切実である。
……ところで気になったんですけど、他の部員の人達のこと、もうあだ名付けてるんですね。
うん!

可愛いでしょ!

(ちょっと距離が近過ぎる気もするけど……)
(……っていうか、今日はひなた先輩と2人なのか……)
 宗介の中で、嬉しさと絶望が複雑に入り混じっていた。
それで、今日の部活は何をするんですか?
うーん……そうだなぁ……。
外をパトロール……とかは?
(パトロールってことは、当然歩いて回るんだろうけど……ひなた先輩と外を散歩するみたいな感じになるのかな?)
(……うん、実にいい)
 宗介は青春に飢えていた。
じゃあ、パトロールにしましょうか。
うん!

さっそく行ってみよう!

付いてきて!

 そして校外へと躍り出た二人は、一路街を目指す。
ふっふふ~ん♪
(先輩、鼻歌まで歌って、よっぽど部活動できるのが嬉しいんだろうな。……それに、この状況……)
(これ、アレだよね? 放課後デート的なアレだよね!?)
 宗介は青春に飢えていた。
 憧れであった放課後デート……それも、桐島ひなたという美少女と……。

 これで浮かれないはずもなく、宗介は有頂天となっていた。

 ……だがしかし、宗介は、この後時を待たずして知ることとなる。
 商店街――。
むむむ!?

この店から、何やら人を惑わせる怪しい匂いが……!?

先輩、そこ、焼き鳥屋です。
 工場地帯――。
立ち入り禁止と書かれているのに、人の気配が……妙だね……。
働いている人がいるんだから当然でしょうに。
 住宅街――。
ここに変質者が現れるかもしれない!

電柱の陰に隠れて張り込むから、宗くんも不審な行動を取る人がいたら教えてね!

僕の目の前にいますね。

今まさに。

 巡り巡って、二人は公園のベンチに座った。
怪人も悪の組織の気配もなくて、今日も街は平和そのもの。

残念だなぁ……。

地球防衛部ならそこは喜ぶところでしょ。

残念がっちゃダメでしょ。

 宗介の中で、想像と現実のギャップが起こっていた。
(なんか、思ってたのと違う……。これ、放課後デートじゃないな。強いて言えば……)
(……小学生の、ツチノコ探し?)
 ツチノコらしい。
うん!

これはパトロールを強化しないといけないかも!

いくら何でも平和過ぎる!

言ってること無茶苦茶ですよ?

分かってます?

 春晴れの青い空の下、涼しい風が二人の横を通り抜けていく中で、宗介は、前々から気になっていたことを聞いてみることにした。
……ひなた先輩、聞いてもいいですか?
どうしたの?
ひなた先輩は、どうして地球防衛部を作ろうと思ったんですか?
もちろん、地球の平和を守るため!
あれ? そんなに通じなかったですか?

そうじゃなくて……ええと……。

そう言えば、私も宗くんに言いたいことがあったんだ!
言いたいこと?
ありがと、宗くん。

地球防衛部に入ってくれて。

ど、どうしたんですか急に……。

宗くんが来るまで、梓とずっと部員を探していたのに誰も入ってくれなくて……。

宗くんがいなかったら、私、きっと諦めてたと思うんだ。
だからあの時、宗くんが部活に入ってくれるって言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。
あの時の宗くんは、ヒーローみたいに見えた!
ヒーローだなんて……。

そんな、大袈裟な……。

あー!

あんなところに荷物を持ったおばあちゃんが!

スクランブルだよ!

宗くん!

 ひなたは一目散に駆け出して行った。
え!? ひなた先輩!?

まだ僕の質問が……!

ひなた先輩!? ちょっと!?

 コミュニケーションの難しさを痛感する宗介であった。
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登場人物紹介

山田宗介。栄優学園1年。

本作の主人公。

なんやかんやで地球防衛部に入部する。

ツッコミ担当であるものの、時折暴走することも。

密かに、地球外敵性侵略者のスパイを探すことに。

桐島ひなた。栄優学園2年。

地球防衛部の創設者にして部長。

天真爛漫という名のお花畑。

正義のヒーローを夢見る。

姫野梓。栄優学園3年。

地球防衛部の副部長。

全てを包む慈愛の心を持つ女神。

桐島ひなたの数少ない理解者にして親友。

宗介を地球防衛部へ引き込んだ元凶。

鈴沢栞。栄優学園2年。

山田宗介の隣同士に住む幼馴染というより姉のような存在。

超過保護。

実はめちゃくちゃ金持ちであるが、宗介は知らなかったりする。

柊木ルシル。年齢不詳。

鈴沢家に仕えるメイドさん。

割と常識人で、辛辣なツッコミが冴える。

鈴沢栞とは主従関係にあるものの、むしろ友達に近くファーストネームで呼び合う。


須藤秋良。栄優学園1年。

何かしら部活に所属しなければいけないらしく、幽霊部員として入部。

あまり心を開かない感じ。

しかしながら、どうやら秘密があるようです。

エリカ・ミュラー。栄優学園2年。

外国からの留学生。

半片言を駆使するが、実は日本語ペラペラとの噂も。

美人ではあるが、時折裏の顔がチラホラと。

冴橋響。栄優学園1年。

地球外敵性侵略者の捜索を宗介に依頼した人物。

世界的組織の一員らしいが、詳細は不明。

ついでに実年齢も不明。

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