新月の決戦

文字数 1,478文字

 アリーアとセト。ついに長い旅路を経て、秘境に辿り着く。
 日は落ちていたが、秘境の民に案内され、封印の秘法を守る精霊トトが居る洞窟へと案内される。
 洞窟の奥地。そこにいたのは、小さい少女の姿をした精霊トトだった。
 トトは言った。封印の秘法を巫女に授ける。しかし注意してほしい。封印の秘法を使って、邪神を封じるためには、邪神を弱らせなければならないのだと。
 アリーアとセトは、顔を見合わせて頷いた。どんな困難も乗り越えてきたのだから、力を合わせれば、必ずできると。
 さらにトトが続ける。急いで秘法を修得してほしい。光の精霊ベンヌが重傷を負って、邪神を押さえる者がいなくなった。邪神が巫女を殺しに向かっていると。  
 頷いたアリーアは、トトのもとで儀式を受ける。秘法の伝授がはじまった。
 セトはそれをじっと見守っていた。旅の終わり。無事に終われば、人間になれる。その時、アリーアに想いを伝えるのだと。
 突如、外から轟音が響いた。アリーアは動揺したが、トトが動くなという。すぐに事態を察知したセトが、洞窟から飛び出した。  
 それは、現れた。
 巨大な蛇の胴体。対になった十本の腕。頭は単眼で発光体のような眼だ。人の負のエネルギーを喰らい強大化する邪神アポピス。秘境の民が逃げ惑う。セトは迷わず、アポピスと対峙した。
 しかし、負のエネルギーを吸ったアポピスの力は、あまりにも強大だった。セトは果敢に立ち向かう。牙を突き立て、爪で切り裂き、術を駆使する。しかし、致命傷を負わせるには至らず、翻弄されてついに倒れる。  
 アポピスがセトにとどめを刺そうとする。
 その時、秘法を修得したアリーアが現れた。だが封印するには、アポピスを弱らせなければならない。
 アリーアは光の魔法で立ち向かう。効果はあったが、決定打にはならなかった。アポピスの反撃を受けるアリーア。これ以上魔法を使うと、封印の秘法を使えなくなる。アリーアが下唇を噛んだ。
 その時、満身創痍のセトが立ち上がった。セトは空を見上げる。
 いつしか月が浮かび、そしてこの日は新月。月の眷属が最大の力を発揮できる日だ。セトは決意した。 
 今、獣人の姿へと変身すれば、最大限の力を発揮できる。アリーアを守る。それが使命だ。
 咆哮。夜空に轟く。獣人の姿へと変身したセトは、眼を見開いてアポピスを睨む。鋭い眼光に、アポピスが怯む。時間は短い。すぐに決着をつけなければならない。
 セト。天から大きな雷を呼び、アポピスに放つ。そして炎を纏った爪で、アポピスを切り裂いた。 アポピスが苦痛に顔を歪ませ、地面に倒れ込む。
 アリーアは驚いていた。パズズに襲われて、夢現の中で見た銀髪の戦士。それがセトだったのだ。とくん、と胸が高鳴る。
 アリーア。今だ。  
 セトの声に我に返ったアリーアは、封印の秘法を使う。
 光。空から雪のように降り注ぐ。倒れているアポピスに光が吸い込まれる。アポピスが断末魔の声を上げて、亜空間の奈落へと落ちていく。
 もう二度と登ってはこれない空間へ、落ちていく。  セトは倒れていた。イシスとの契約を破ったセトには、死が訪れる。それは精霊との契約の掟だ。 駆け寄ったアリーアが、セトを抱きこす。セト。名前を呼ぶ。
 アリーアの頬を撫でて、セトがふっと微笑んだ。
 最期に、セトはこう言い残した。  
 あなたを、誰よりも愛している、と。  
 アリーアの涙が、セトの顔を濡らした。セトは静かに、息を引き取った。
 アリーアがむせび泣く。世界は救われた。だが、そのもとに犠牲になったもの。
 それは、月だけが知っている。
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