第7話 決意
文字数 2,431文字
ギルはすべてを思い出し、困惑した
この先どうすればいいのかさえ分からないくらい、まるで心におもりでも積まれて、極寒の地で凍えているかのような気持ちで、辛くて仕方ない状態だった
そんなギルを見て、初老の男は
「すまないな、嫌な事を思い出させてしまって…でもお前がこの世界で生きていくため…いや、お前の存在をこの世からなくしたくなかったんだ」
単純だがギルの心のおもりが少し軽くなった気がした。ギルにとって今必要な言葉を初老の男は分かってくれている、それだけでも慰めになった
「…何で…」
「ん?」
「何でおれの名前をそのまま言ってくれたのか分かった気がする、思い出させるためだけじゃないんだろ?」
勘の鋭い子だ、そして強い心を持っている、と初老の男は笑みを浮かべた
「…お前も怪我をしてるし、私も余計な事を言ってしまって頭が混乱しているだろう。裏の仕事に就くことはじっくり考えてからでもいい。もし仮にやらないにしても、お前を見捨てるようなことはしないから安心しなさい」
と言い、初老の男は部屋を後にした
風になびくレースのカーテンを目で追いながらも、ギルの頭の中は色々な事でいっぱいになっていた。それを整理しようとしているのだが、一番脳裏に焼き付いているものが整っていなかった
人を殺す?…兄貴のように…?
と、考えただけで背筋に寒気が走った。整理が付かなかったのはその印象が頭から離れなかったからだ
でもじわじわと違う感情が生まれてきていた
あんな事がなければおれは…おれたちは幸せに暮らせたんだ…でもどうやって止められた?力のない小さかったおれが、凶器を持った兄貴に対抗出来たか?
そう思った瞬間、ギルの目が鋭く光った
『もっと力が欲しい!』
もう大丈夫だからとミハルに言い、自分の部屋に戻るとアルがハッとした様子でギルを見たが、すぐに本の途中を読み始めた
「…アル、お前は裏の仕事やるのか?」
「ああ。」
相変わらず単調だな、と思いながらアルの横に座り
「憎いからか?」
と問いかけてみた
アルは少し悩んでから
「…ああ。」
とだけ答えた
きっともっと違うことを考えてるな、とギルは感じていたがあえて聞かなかった
「おっさんはおれとお前を組ませるつもりだけど、お前はどう思う?」
「別に。ボスの命令だから仕方ない。」
「仕方ない、か…その言葉、そっくり返すわ」
と呆れた後、なぜかおもしろい気持ちになっていた
そしてアルが言った『ボス』という言葉の響きが初老の男に相応しいと感じたギルは
「何で気づかなかったんだろう…」
と呟いた
ギルの言葉にアルは何事かと思ったが、独り言かとすぐに気づき、また本を読み始めた
夕食を終えて部屋に戻った初老の男の部屋のドアをギルはノックした
返事があり部屋に入るや否や
「ボス!おれやります!」
と意気込んだ様子を見た初老の男は
「本当か?」
とじっとギルの目を見つめた
「決めたんだ!ボスが望むような『人殺し』じゃないんだけど…力が欲しい!何もない自分が生きていく為には…その為にはこれしかないって!」
初老の男は表情を変えず黙ってギルの話を聞いていた
ギルは続けた
「変わりたいんだ、ただトラウマに引っ張られて何も出来ない自分を…何があってもブレない強い力が欲しい!」
だんだん感情が高ぶったギルは自分でも抑えが効かなくなっていた
「ボスに恩返しがしたい…ボスを守りたい…二度と大事な人を失いたくない!!」
気づいたらポロポロと涙が出てきていた
それを見た初老の男は
「泣いてはいけないよ、これから先どんな事があるか分からないんだからな…」
とふーっと息を吐きながら笑みを浮かべた
「お前の決意、しかと受け止めたぞ」
と椅子から立ち上がり、ギルの肩に手を置いた
「アルを呼んで来てくれないか?」
ギルは浮かれた状態でアルの元へ行き
「おれやった!ボス呼んでる!」
と、ちぐはぐな言葉でアルに報告したので、アルは困惑していた
「ほら!行くぞ!」
戸惑うアルの腕を引っ張り、初老の男の部屋へ駆け込んだ
慌てているギルの様子を見て笑顔になったが、すぐに真剣な面持ちで
「これからコードネームをつける」
と言った途端、二人にも緊張が走った
「アル、お前はブラック。ギル、お前はレッドだ」
随分単純だなぁってギルは思った、もっと秘密組織らしい感じかと思っていたからだ
「腑に落ちない面持ちだな。分かるぞ、ギル」
ギルは心を読まれてドキッとした
「コードネームは単純な方がいい。あえて付けないものもいるが、私たちは組織でやっている。もし一人捕まれば芋づる式に始末され、組織に大ダメージを与えてしまう。そこで見た目などから付けるようにしている。もし仮にその名が出ても感づかれないようにだ」
なるほどーとギルは感心した
「そしてお前たちのチームを『クリーンレンジャー』と呼ぶ事にする。表向きはハウスクリーニング、裏では『掃除屋』だ」
「チーム?他にもいるの?」
「ああ、『掃除屋』はお前たち2人がやるが、ハウスクリーニングには他の人材も起用する。と言っても、お前たち同様『裏』の者達だ」
そっか、二人じゃ掃除できないか、でもアル…いや、ブラックのやつ大丈夫かなぁ?と心配になった。
でもさっき初老の男と話した時に、おれは人の心を開くって言ってたな、もしかしたら変わるかもな、と一人で納得していた
「それでは二人とも頼んだぞ」
「はいっ」
「はい。」
レッドになったギルは敬礼をし、ブラックになったアルは深いお辞儀をした
この先どうすればいいのかさえ分からないくらい、まるで心におもりでも積まれて、極寒の地で凍えているかのような気持ちで、辛くて仕方ない状態だった
そんなギルを見て、初老の男は
「すまないな、嫌な事を思い出させてしまって…でもお前がこの世界で生きていくため…いや、お前の存在をこの世からなくしたくなかったんだ」
単純だがギルの心のおもりが少し軽くなった気がした。ギルにとって今必要な言葉を初老の男は分かってくれている、それだけでも慰めになった
「…何で…」
「ん?」
「何でおれの名前をそのまま言ってくれたのか分かった気がする、思い出させるためだけじゃないんだろ?」
勘の鋭い子だ、そして強い心を持っている、と初老の男は笑みを浮かべた
「…お前も怪我をしてるし、私も余計な事を言ってしまって頭が混乱しているだろう。裏の仕事に就くことはじっくり考えてからでもいい。もし仮にやらないにしても、お前を見捨てるようなことはしないから安心しなさい」
と言い、初老の男は部屋を後にした
風になびくレースのカーテンを目で追いながらも、ギルの頭の中は色々な事でいっぱいになっていた。それを整理しようとしているのだが、一番脳裏に焼き付いているものが整っていなかった
人を殺す?…兄貴のように…?
と、考えただけで背筋に寒気が走った。整理が付かなかったのはその印象が頭から離れなかったからだ
でもじわじわと違う感情が生まれてきていた
あんな事がなければおれは…おれたちは幸せに暮らせたんだ…でもどうやって止められた?力のない小さかったおれが、凶器を持った兄貴に対抗出来たか?
そう思った瞬間、ギルの目が鋭く光った
『もっと力が欲しい!』
もう大丈夫だからとミハルに言い、自分の部屋に戻るとアルがハッとした様子でギルを見たが、すぐに本の途中を読み始めた
「…アル、お前は裏の仕事やるのか?」
「ああ。」
相変わらず単調だな、と思いながらアルの横に座り
「憎いからか?」
と問いかけてみた
アルは少し悩んでから
「…ああ。」
とだけ答えた
きっともっと違うことを考えてるな、とギルは感じていたがあえて聞かなかった
「おっさんはおれとお前を組ませるつもりだけど、お前はどう思う?」
「別に。ボスの命令だから仕方ない。」
「仕方ない、か…その言葉、そっくり返すわ」
と呆れた後、なぜかおもしろい気持ちになっていた
そしてアルが言った『ボス』という言葉の響きが初老の男に相応しいと感じたギルは
「何で気づかなかったんだろう…」
と呟いた
ギルの言葉にアルは何事かと思ったが、独り言かとすぐに気づき、また本を読み始めた
夕食を終えて部屋に戻った初老の男の部屋のドアをギルはノックした
返事があり部屋に入るや否や
「ボス!おれやります!」
と意気込んだ様子を見た初老の男は
「本当か?」
とじっとギルの目を見つめた
「決めたんだ!ボスが望むような『人殺し』じゃないんだけど…力が欲しい!何もない自分が生きていく為には…その為にはこれしかないって!」
初老の男は表情を変えず黙ってギルの話を聞いていた
ギルは続けた
「変わりたいんだ、ただトラウマに引っ張られて何も出来ない自分を…何があってもブレない強い力が欲しい!」
だんだん感情が高ぶったギルは自分でも抑えが効かなくなっていた
「ボスに恩返しがしたい…ボスを守りたい…二度と大事な人を失いたくない!!」
気づいたらポロポロと涙が出てきていた
それを見た初老の男は
「泣いてはいけないよ、これから先どんな事があるか分からないんだからな…」
とふーっと息を吐きながら笑みを浮かべた
「お前の決意、しかと受け止めたぞ」
と椅子から立ち上がり、ギルの肩に手を置いた
「アルを呼んで来てくれないか?」
ギルは浮かれた状態でアルの元へ行き
「おれやった!ボス呼んでる!」
と、ちぐはぐな言葉でアルに報告したので、アルは困惑していた
「ほら!行くぞ!」
戸惑うアルの腕を引っ張り、初老の男の部屋へ駆け込んだ
慌てているギルの様子を見て笑顔になったが、すぐに真剣な面持ちで
「これからコードネームをつける」
と言った途端、二人にも緊張が走った
「アル、お前はブラック。ギル、お前はレッドだ」
随分単純だなぁってギルは思った、もっと秘密組織らしい感じかと思っていたからだ
「腑に落ちない面持ちだな。分かるぞ、ギル」
ギルは心を読まれてドキッとした
「コードネームは単純な方がいい。あえて付けないものもいるが、私たちは組織でやっている。もし一人捕まれば芋づる式に始末され、組織に大ダメージを与えてしまう。そこで見た目などから付けるようにしている。もし仮にその名が出ても感づかれないようにだ」
なるほどーとギルは感心した
「そしてお前たちのチームを『クリーンレンジャー』と呼ぶ事にする。表向きはハウスクリーニング、裏では『掃除屋』だ」
「チーム?他にもいるの?」
「ああ、『掃除屋』はお前たち2人がやるが、ハウスクリーニングには他の人材も起用する。と言っても、お前たち同様『裏』の者達だ」
そっか、二人じゃ掃除できないか、でもアル…いや、ブラックのやつ大丈夫かなぁ?と心配になった。
でもさっき初老の男と話した時に、おれは人の心を開くって言ってたな、もしかしたら変わるかもな、と一人で納得していた
「それでは二人とも頼んだぞ」
「はいっ」
「はい。」
レッドになったギルは敬礼をし、ブラックになったアルは深いお辞儀をした