道場をやめた後②太極拳を始める

文字数 1,117文字



居合道をやめてから数年間は軽いトレーニングをする程度で、特に新しいことを学ぶ気は起きませんでした。

その代わり、今までの武道経験を生かした小説の執筆に取り組みます。
一時は本気でプロデビューを目指し、小説大賞に応募などして、そこそこ惜しいところまで行ったりもしましたが、結局は力及ばず、完全に目標を見失ってしまいました。

それでも、最低限のトレーニングは続けました。目標がなくとも、身体を動かさなければ気が済まなかったのです。
もはや、それは生活の一部でした。

それが武道なのか武術なのか格闘技なのかは自分でも分かりませんでしたが、他に特技のない筆者にとって、それは心の拠り所だったのかもしれません。

そんな筆者が再び新しいことを学ぶ気になったのは、あまりにも暇だったからです。

そこで今度はもっと検索範囲を広げて、武術が学べるところを徹底的に探してみます。
そうして見つかったのが太極拳の教室です。

太極拳と言えば、今日(こんにち)では健康体操として広まっていますが、そこは武術も学べる教室でした。

空手の原型となった中国武術には以前から興味を持っていましたが、中でも太極拳は老若男女問わず学べる生粋の武術として注目していました。
動画や書籍を参考に、簡化太極拳の套路(とうろ)(型のこと)を覚えてみたりもしていました。

自宅から片道一時間半かかる場所ではありましたが、さっそく体験入門を申し込み、教室に行ってみます。

そこで驚くべきことが起きました。

筆者が剛柔流空手の道場に通っていたことを伝えたところ、太極拳の先生の口から剛柔流の開祖・宮城長順(みやぎちょうじゅん)の名前が出てきたのです。

15年間剛柔流の道場に通って、ついに一度も聞かなかった開祖の名が、ここで……。

しかも、宮城長順の師匠である東恩納寛量(ひがおんなかんりょう)や、そのまた師匠である劉龍公(ルールーコー)の名まで出てきました。

空手の先生より太極拳の先生の方が空手の歴史に詳しいなんて、いったいどういうことでしょう?

当然、太極拳についてはもっと詳しく知っているはずですから、知識面に関しては申し分ありません。

では太極拳の腕前は?

初心者である筆者に確たることは分かりません。

しかし、初心者と言っても、空手を始めた時のような知識皆無の完全初心者ではありませんから、この先生がスポーツ指導者ではなく武術家であることは分かりました。

「三年かけて習うより、三年かけて良師を探せ」という言葉がありますが、筆者は20年かけてようやく良師と巡り会うことができたようです。

それから半年あまり。現在。

この先、太極拳をどこまで続けるのかは分かりません。
生涯をかけて極めていくのか。
また新しい何かを学ぶことになるのか。

分からないから面白い。
不安だから退屈しない。

それが人生というものらしいです。

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