第1話 大正の別館

文字数 1,863文字



震災からある程度復旧した街

「二、三日ぐらい観光して来いよ」

「だね… そうするよ」

兄夫婦と犬達とも別行動で

当てもなく川沿いを歩いて

気が付くと名物の鰻横丁だ

ムラサキのかおりと

焼杉の外壁や格子細工の窓が綺麗な大正の建物

マイクロバスツアーかの農組団体と一緒に歩く

気が付くと

T地形の袋小路へ「フラッ」と迷いこんだ… いや吸い込まれたようだ

黒板にチョークで太く書かれたお品書きが各店に看板に

「グルルッッ」

蒲焼の香ばしい匂いがお腹を刺激する。

ビートの砂糖を使い苦味が出る手前まで香ばしく焼いたカラメルダレと
軽く蒸して皮を炙った重厚な照り

黒焼きが名物のようで、松竹梅 と高価そうな御膳のサンプルもある

多分3万から1.5万位であろう

高いいっ 飛び抜けて…高い

「ああココが広くて良いね〜」 と例に団体がその高い店に消えてゆく

いや… どの店も高いのだが

そして喧騒が止む

歴史ある大正の建物を維持するの大変だから確かに頷けなくもない

左側一番奥の一段と古そうな老舗のメニューは小さく値段が書いてあった

何なに

上から下へと隈なく漢字書きのプライスを見る

鰻小丼 二千四百

これが一番安い、とはいえブランチにはちょっと、お高いのだが

暫くすると、「お決まりですか?」と店から葵い服の店員が出てくる

軽く服装をチェックされ

「解った、鰻小丼ですね」と微笑する

とて、小馬鹿にした感じではなく

長く手入れされた掌を斜め上に向けて、バスガイドの様に彼方になりますと
更に奥の別館に案内される

「団体さんが騒がしので、お静かなところが宜しいでしょう?」

丸い月見窓のある二階へ

いや…店内は閑古鳥だった気が

赤い絨毯が引かれた 軋む階段を登り

目の前にある現実

モデルに様なスラットした美脚に見惚れていた

いや…
いや、薄く埃の被った
鈴蘭の様な電球のランプシェードが可愛い如何にも大正だ

一抹の不安がよぎる

あ…怪し過ぎる。


この店は普通じゃない…

奥の廊下には小部屋が三つあり

反対の出窓に布団が干してあった

知る人は知るチョンマの様な雰囲気だ、いや昼間から失礼

手前の板の間には布張りのソファと

床置きの振り子時計

奥は小上がりで掘りごたつな6人掛けなテーブルに案内される

畳の真ん中に赤絨毯

その真ん中 奥に対面で座る

慣れた手つきでメニューを出すが

鰻小丼 …
余り好きじゃないじから半分でも良いかな?と呟くと

じゃあ、聞いて見ますねと

「おばちゃん〜」

(やっぱりね…)

私はね、炙りサラダチキン

頂いても良いかしらと

上目遣いで聞く

「あぁ」

店付きのコンパ… かな



まあ一番高い店に入ったと思う事にした

ちょっとあどけなさが残り可愛いし

「今日の先付けでごいます」
おばちゃんがいきなりスイーツ4点を持って来た

今日はこれだけで良いや と

「貴方も食べるでしょ?」

抹茶カキ氷寒天を二つ取る

まあまあ、此処は大人の貫禄で「
ドンとやり過ごすことに決めた

「もっと頼みな」

「いえ、いいの

暑くて食欲なくて
と」

トッピングの白玉を口に運び

近況を話しはじめ

ふと胸元から

名刺を出そうとする

「大体解ったからいいよ

聞かない、断ると思うし

でも…店付きじゃないの?」

「やっぱり遊び慣れているのね…」

「ウチは フリーだっちゃ」

アニメ顔でニッコリと笑った

「チュードルの機械式ね見て思ったの

此処で店付きじゃ勿体無いって

だからね専属

イブニングはデイトナをはめるんでしょ

クルマもデイトナで

意外と白いかなぁ〜? なんてねっっ

ウフっふ カッコいいね。」

一人で盛り上がっている

天然なのかなぁ?

流れを変える如く

胸の谷間より山の谷間見に来たんだ

「あら、案内するわよ」

そう来たか…

「もう遅いし」

「明日ね、いつまでいるの?

今度、小町通り案内してくれたらねっ」

いきなり地元をピンポイントでつくなんて??

堅気じゃないね。やっぱりプロか

では、負けじと

「何処のバス乗ってたの?」

「北斗中央交通

あは バレたね、だからセミプロ

入り口の店の竹ぐらい っ かなぁ」

「いや 面白いから松でないと失礼だ」

「貴方もねっ」と返された

うぬ… 参ったなぁ



つづく
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