第5話 誕生日
文字数 1,191文字
「聖良、お誕生日だね、おめでと」
今朝のせいちゃんは、おはようの代わりに、お祝いの言葉をくれた。
「ありがと、そっか、誕生日だったね」
「忘れてたの?」
「うん」
誕生日なんて、ここ数年、意識することもなかったなあ。小さい頃は、おいしいもの食べたり、プレゼントをもらったり、一大イベントだったけれど。 今は、また一つ年をとったなと、それくらい。
「誕生日ケーキとか、食べるの?」
「ええー、自分の誕生日だし、自分でお祝いはしないかなあ」
そう言うと、せいちゃんは何か言いたげな表情をした。じっと言葉を待っていたけれど、続きの言葉はなかったから、かわりにせいちゃんに尋ねる。
「せいちゃん、ケーキ食べたい?」
「うーん、聖良が食べたいなら」
せいちゃんは、じっと私の顔を見た。
「聖良がうれしいって思えたら、私もうれしいよ」
「うーん、そっか。せいちゃんはやさしいね」
私がうれしいと思うこと、か。それってなんだろう。
自分で自分をお祝いしようって気持ちには、なかなかなれない。頑張れてない私に、ご褒美を得る資格なんてないと、思っちゃうんだよね。誕生日とはいったって、いたずらに年だけを重ねて、このまま年月が過ぎていくのかなって。年をとってもちょっとやそっとじゃ変われない私。
「ケーキは、いいや。私なんか、年をとっただけで、なんにもできてないしさ」
ちょっと自虐めいたことを口にしてしまう。そしたら、せいちゃんが、あんまり見せたことのない、悲しそうな顔をした。
「私なんか、とか、言わないで、聖良。―かわいそうだから」
なぜか、ちくりと胸が痛む。せいちゃんの言葉を、そっとなぞるように繰り返す。
「かわいそう」
「そう。かわいそう、聖良が。あとね、聖良のことが好きな人たちがかわいそう」
「私のことが、好きな人?」
「そう、せいかもだし、聖良のお友達も、聖良のことが好きだから」
せいちゃんは、照れもしないでまっすぐな目で、そう言い切る。私は、なんだか恥ずかしくって、少しだけ目をそらしてしまう。
せいちゃんは、純粋で、かわいらしいな。私に、こんなにまっすぐにやさしい言葉をくれて。だから、その気持ちを否定してしまうのは、きっと、いけないことなんだと思う。
本心なんて、簡単には変えられない。だけど、せいちゃんの悲しむ顔は見たくない。これもまた、私のわがままな本心だ。
「わかった。ごめんね」
頭を、そっとなでると、せいちゃんはにこっと笑ってくれた。
「今日は、なんかおいしいもの食べよっか」
「うん!」
全然、だめだめな私だけど。それでも、好きでいてくれる人もいる。
ぴこん、とスマホがなる。メッセージを見ると、友達の、のんちゃんからだった。思わず、ふふっと笑う。
私は今、ぬかるみを歩いているかもしれない。周りより、ずいぶん進むスピードは遅いかもしれない。だけど、私は、ひとりじゃない。そんなことを思えた朝だった。
今朝のせいちゃんは、おはようの代わりに、お祝いの言葉をくれた。
「ありがと、そっか、誕生日だったね」
「忘れてたの?」
「うん」
誕生日なんて、ここ数年、意識することもなかったなあ。小さい頃は、おいしいもの食べたり、プレゼントをもらったり、一大イベントだったけれど。 今は、また一つ年をとったなと、それくらい。
「誕生日ケーキとか、食べるの?」
「ええー、自分の誕生日だし、自分でお祝いはしないかなあ」
そう言うと、せいちゃんは何か言いたげな表情をした。じっと言葉を待っていたけれど、続きの言葉はなかったから、かわりにせいちゃんに尋ねる。
「せいちゃん、ケーキ食べたい?」
「うーん、聖良が食べたいなら」
せいちゃんは、じっと私の顔を見た。
「聖良がうれしいって思えたら、私もうれしいよ」
「うーん、そっか。せいちゃんはやさしいね」
私がうれしいと思うこと、か。それってなんだろう。
自分で自分をお祝いしようって気持ちには、なかなかなれない。頑張れてない私に、ご褒美を得る資格なんてないと、思っちゃうんだよね。誕生日とはいったって、いたずらに年だけを重ねて、このまま年月が過ぎていくのかなって。年をとってもちょっとやそっとじゃ変われない私。
「ケーキは、いいや。私なんか、年をとっただけで、なんにもできてないしさ」
ちょっと自虐めいたことを口にしてしまう。そしたら、せいちゃんが、あんまり見せたことのない、悲しそうな顔をした。
「私なんか、とか、言わないで、聖良。―かわいそうだから」
なぜか、ちくりと胸が痛む。せいちゃんの言葉を、そっとなぞるように繰り返す。
「かわいそう」
「そう。かわいそう、聖良が。あとね、聖良のことが好きな人たちがかわいそう」
「私のことが、好きな人?」
「そう、せいかもだし、聖良のお友達も、聖良のことが好きだから」
せいちゃんは、照れもしないでまっすぐな目で、そう言い切る。私は、なんだか恥ずかしくって、少しだけ目をそらしてしまう。
せいちゃんは、純粋で、かわいらしいな。私に、こんなにまっすぐにやさしい言葉をくれて。だから、その気持ちを否定してしまうのは、きっと、いけないことなんだと思う。
本心なんて、簡単には変えられない。だけど、せいちゃんの悲しむ顔は見たくない。これもまた、私のわがままな本心だ。
「わかった。ごめんね」
頭を、そっとなでると、せいちゃんはにこっと笑ってくれた。
「今日は、なんかおいしいもの食べよっか」
「うん!」
全然、だめだめな私だけど。それでも、好きでいてくれる人もいる。
ぴこん、とスマホがなる。メッセージを見ると、友達の、のんちゃんからだった。思わず、ふふっと笑う。
私は今、ぬかるみを歩いているかもしれない。周りより、ずいぶん進むスピードは遅いかもしれない。だけど、私は、ひとりじゃない。そんなことを思えた朝だった。