第3話 破られる静寂

文字数 964文字

 ガチャッ! バーン!

 ――コロロロロン!

 突然、勢い良く開かれた扉の音と、控えめだったカウベルが驚くほどけたたましく鳴り響き、大きな紙袋を二つ抱えた女の子が入ってきた。
 小柄な体全体で、きっとぶつかるようにして扉を開いたのだろう。
 バウン、と勢いのついたまま扉が閉じ、ベルも揺れが収まらず、コロコロと数秒、鳴り続けた。

「たっだいまー!」
「おかえりなさい」
「はぁ~、もう、重かったぁ!」
「ごくろうさま、助かったよ」
「もー、マスターってば買い物ぐらい、ちゃんとしておいてよねっ!」

 静かだった空間が、たった一人に思い切り乱されてしまった。
 見るともなしに、二人のやり取りに視線を向けていた。
 二十代後半から三十代前半に見えるマスターと、都会の雑踏にまぎれていてもおかしくないくらい、垢ぬけた高校生ふうの女の子。
 雇い主とアルバイト、そんな関係なのだろうか。

 視線に気づいたのか、女の子がこちらを向いた。

「あっ、新しいお客さん? いらっしゃいませー! ゆっくりしていってくださいネ!」

 元気良くあいさつをされ、ニッコリ笑って会釈で返した。
 あまり見ていても失礼にあたる。
 もう一人の女性のほうは、マスターのはす向かいの席で、まだ雑誌を読みふけっている。
 このにぎやかな中、平然と無視している様子なのは、常連さんだからだろうか。
 また、外へ視線を移してコーヒーを飲んだ。

 それにしても、あのランプ……。
 こんなに大きな物を見たのは初めてのことだ。
 特別に注文した物なのだろうか? いつからあるのかしら? 随分と年季が入っている。
 こんな珍しいランプを置いておくなんて、何か意味があるんだろうか?
 そう思って、クスリと笑った。

 だって……。
 こんなもの、何の意味もなく置いておくはずがない。
 きっと何かお店に関りがあるとか、古くからありそうだから先代のご趣味とか、そういったものだろう。

 白樺並木の向こう側を、電車がゆっくりと過ぎていった。
 車内はほとんど人の姿がない。
 食い入るように、その中を見つめた。あるはずのない影を探すのは、もう癖のようなものだ。

 フッとまた、溜息をこぼして頬づえをついた。

 携帯も、相変わらず無音、無灯――。
 それでも待ってしまうのも、やっぱり癖のようなもの。
 もう、あれから数年が過ぎているというのに……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み