第4話  居酒屋

文字数 1,755文字

土曜日の夕方、私は待ち合わせの店に出掛けた。本当は昼間のショッピングから誘われていたのだけど、それはお断りした。

 その店は結構流行っているらしく、学生のグループやカップルなどで一杯だった。
茂木(もぎ)ちゃんと涼子(すずこ)は壁際のテーブルで話し込んでいた。

茂木ちゃんと涼子、そして今日は欠席だが、仲間内唯一の既婚者でセレブの華子。
そして私。4人グループである。
高校時代からの友人は華子であるが、茂木ちゃんと涼子は華子の友人で、それで私は彼女達と知り合いになった。地方の国立大学の同窓生である。

卒業後はそれぞれの就職先でばらばらになったが、何故か東京で出会った。
それぞれに違う道を歩いて、また出会ったって言う感じ。
涼子はプログラマー、茂木ちゃんは商社の受け付け嬢、華子は絵画教室の講師をしている。
因みに涼子は28歳にしてバツイチである。


私が二人の前に立つと、
「何?あんた、そのサングラス。」
「でかっ。」
二人は交互に言った。

私は座ってサングラスを取った。
「樹。どうしたの?その顔。」
「ありゃ~。」
また、交互に言った。

「生徒に殴られた。・・これでも随分薄くなったんだよ。青タン。最初真っ黒だったよ。・・もう一週間経つのに。そんなに目立つ?」
私は左目の下の痣をそっと触った。まだ痛い。
「ほら、ここがね。丁度目の下で良かったって。ちょっとずれていたら目だったから。それに私を殴った山崎つう悪ガキがへなちょこだから、助かった。バリバリ部活やっている男子に殴られたら折れていたかもって。頬骨」
私はそう言った。
「災難だったねえ・・」
二人はそう言った。

 運ばれて来たピザやサラダを突きながら、私は事の顛末を二人に話した。
話して行くに連れて気の毒そうにしていた二人の表情が笑いを堪えているそれに変わって行くのが分かる。そして最後には揃って大笑いをしていた。
「ホント、樹って間が悪いよね。可哀想に。」と言いながらひーひー笑っている。
ひとしきり笑った後に、茂木ちゃんが言った。
「それでその後どうなったの?」

私はため息をつきながら答えた。
「結局、私は子供同士の喧嘩に巻き込まれたって事になってさ。取り敢えず、殴った方の親は学校に来て私に謝ったよ。・・・校長がね。最後に喧嘩両成敗ですからって訳のわからん事言って、・・何で私まで成敗されなくちゃならないんだか、・・意味分かんないね。・・・そしたら、指導力不足だからって。授業中に喧嘩なんてさせるお前が悪いって。」
 二人は爆笑。
「その子がそれ以来、私の授業を前よりは真面目に受けているから、って言うか寝ているんだけけれどね。まあいいかなって思って。怪我も打撲で済んだしね。」
「良かったじゃない。その子、一応反省したんだ。」
「まあね。・・・って言うか、今度授業妨害したら、診断書持って警察に行くって脅かしたから。」
「脅しじゃん。思いっきり。」
「脅しだよ。」
「命がけだね。樹も。」

「まあね。しょうがないよ。生きて行かなくちゃならないから。私は私を養うので精一杯。・・しっかし、超ムカつくな。あの校長。君は正規の職員じゃないから、騒ぎを起こしたら保障はないからとか言っちゃって。私は巻き込まれたのに・・。もう、あのタコ。」
私はビールをごくりと飲んだ。

「タコ(笑)・・・樹と話しているとウチの馬鹿な弟と話しているような感じになるんだけど。」
涼子が笑った。
「弟幾つ?」
「17歳。高校生。」
「若っ。」
「話すと笑えるよ。下手なお笑いよりもあいつのマジ話の方が何ぼか笑える。樹と同じ。」
「いいなあ。それ。ある意味癒しだね。阿保な弟との会話。・・うらやましい。涼子。」
茂木ちゃんが羨ましそうに言う。
「阿保か。あいつの将来考えると怖いよ。絶対女に騙されて借金重ねるタイプだね。そうなったらあたしは縁を切るよ。」
「大丈夫。その時は茂木ちゃんが養ってくれるから。」
「私は金ずるかよ。」
「茂木ちゃん。よろしくね。」
「今度、写真見せて。弟。しかし、28と17?犯罪だね?」
「犯罪だよ。」
「あと1年待つといいかも。」
「29と18ならよくある話よ。」
「いや、ないから。」
「んじゃ、30と19。これでどうだ!」
「・・・・。」

私達は笑いながら、尽きない話を次から次に話す。顔の痣のせいで暫くこそこそ暮らしていたが、今日は来て良かったと思った。
 
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