第12話 「もう辞めてやる」という働き方

文字数 1,065文字

「みんなこうしているのに、きみだけそうしないのはオカシイやろ」
 正社員として、むかし勤めたスーパーマーケットで、店長から言われた言葉。
「休憩中も、みんなとコミュニケーションをとるように。みんな、そうしとるんやから」
 現職場で、上司がのたもう。

 前言は、無意味と思える朝礼を長々とする店長に、私が反抗的な態度をとったのが原因だった。開店してすぐいらっしゃるお客さんも多いから、通路にダンボールを置いておくより、品出しをして通路を開けておきたい、朝礼を短くすればその時間ができる旨を伝えたが、「ここでは昔からそうなっとるんや」とすげなく却下されたのが、イサカイの原因だった。

 以来、私は朝礼の時間、フテクサレていた。「みんながピシッとしているのに、きみだけダランとしている」という注意もまた受けた。まったく、私には馬鹿みたいな時間に思えた。社訓をお経のように唱え、気をつけ、礼を軍隊のようにやったところで、一体何がどうなるというのだろう…
 店長との関係は悪化した。「会社のしきたり」に脳を空っぽにしたように従う、他の従業員にも不信感を覚えた。当時私は結婚3年目位で、子どもも小さく、社宅に住んでいたけれど、半年でさっさと辞めてしまった。

 現在の介護職場でも、「みんなと同じ」になることが、大切なようだ。しかし、あれこれ命令を下す上司そのものが、全く「みんな」から信用されていないのだった。だが「みんな」は彼が上司であるということから、へりくだって何も異を唱えず、従順そうに振る舞っている。

「聞き流せばいいですよ」と誰かに言われても、おかしいことはおかしいと私は思ってしまう。で、それを口にすると、私がオカシクなるのだ。
 人との交流は好きだ。話をするのも聞くのも大好きだ。ただ、「こうなっているから」とか「みんながそうだから」という理由での交流は不得手である。

 実は、この文章、介護日記(?)から外れて、「学校のイジメなど無くならない。オトナ社会が、こうなのだから」といった内容を綴るつもりで、書き始めたのだが、失敗に終わりそうだ。
 結局、自分のことに忙しい、つまらんオトナなんだな、と鏡に映る自分を見た。
 …この頃の働き方は、「介護職員どうしの関係、ほんとにややこしい。オレはただ今日の仕事をしよう。もう辞めてやるんだ、辞めてやるんだ」と思いながら、業務をこなしている。入居者さんには、そんな荒ぶる気持ちは、絶対みせない。接する時は、ほんとに楽しい。
 ただ、「辞めてやる」、そう思っているだけで、職場にいても、けっこう気持ちが、軽い。
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