救援投手
文字数 3,224文字
はぁはぁ……
今の竜崎では打たれる可能性が高い。歩かせるか?)
次の打者にはヒットこそ打たれてないものの、何度もファウルで粘られてる。
もうスタミナが持たない。
コースで攻めれるこの4番打者で勝負するしかない!)
だったら……このコースに投げて来い!)
あいつの代わりにチームを甲子園に連れて行くって!!)
小腹も空いたし早速スイーツタイムと洒落込みますか。
おっ、プリン2つ入ってるじゃん!
どうせあいつ、今日も帰って来るの遅いし……
うん、誰も見てない。
最初からプリンなど入ってなかった!
いっただき~♪
一卵性双生児の双子だ。
小さい頃は同じ髪型、ペアルックな服装をしていたこともあり、見分けがつかないほどそっくりだった。
しかし私の方が成長が早く、小学校高学年になる頃には間違える人は居なくなった。
私が女であることを意識し始めたのもその頃からだ。
そして二人共同じ高校に入学し、成長の遅かった弟はようやく私の身長に追いついた。
しかしもう同じ格好をすることはなく、性格も全然違うため間違える人は居ない。
だが当人達は気付いている。
今でも同じ髪型、同じ服装をすれば瓜二つであることを。
まさに私が男だったらという可能性、もう一人の私である。
だから双子は意識のどこかで繋がっていると言われている。
でも……あいつの痛みも声も私には届かなかった。
あいつが居なくなる実感が湧かない。
嘘にしか聴こえない。
私は姉として、わがままなあいつの練習に付き合ってきた。
だからあいつの球を誰よりも知っていると思った。
あいつは男にしては小柄で、私自身も運動神経には自信があった。
だから女の私でも誤魔化せると思った。
何より負けず嫌いなあいつが、私を認めて想いを託した。
だから負けるわけがないと思った。
それなのに……初回で負けた!
あいつに会わせる顔がない……
本人は軽く接触しただけと言って詳細は話さなかったが、とにかく生きていたことが嬉しくて涙が溢れた。
それを悟られたくなくて意地を張り、結局事故のことを今でも訊きそびれてしまっている。
今更追求するのも心配してるみたいで嫌だし。
私達姉弟はそういうバランスで成り立っているのだ。
だが無事では済まなかった。
骨はヒビが入った程度で来月には治るそうだが、利き手の神経に問題があるらしい。
そっちの詳細もよく知らないが来週手術するらしい。
来月からの地区予選には間に合わないだろう。
しかし予選では一度の敗退も許されない。
この夏の大会は弟の人生にとって特別な意味を持っている。
例え不正を犯してでも諦めたくない。
私は鬼気迫る弟の姿勢に応え、リハビリが終わるまで影武者となり、共犯者となることを決めた。
このことは二人だけの秘密。
普通の助っ人とは違う。
バレたらきっとタダでは済まないだろう。
しかも私は女なのだ。
だから家族だけでなく、仲間達にもバレるわけにはいかない。