3 雷鳴
文字数 829文字
京の都から、帝が、摂津の国の住吉大社に行幸した。
南海を下る路には、いくつもの
きらびやかな車列は、神社より一つ手前の
帝は、旅装から、参拝のための正装へと着替えた。
馬には、これから先の境内で静かにするよう、飼葉と水とが与えられた。
再び出発した一行は、路線沿いの見物人の中、しずしずと大社の内へと入っていった。
帝が御召しの牛車と、直属する車両は、合わせて六両であったが、いずれも濃い紫の錦で飾られ、その鮮やかな群青の車列の通過が、人々の眼に残った。
帝は身を清めると、大社の本殿に上り、世の平安を祈った。
そして、ここ住吉の地を讃える歌を、神に捧げた。
私が見て 知っているだけでも
もう長いこととなりました
この住吉の岸辺の美しい松は
一体どれほどの世を経てきたのでしょう
すると、祈りの奥にあった鏡が光を放ち、雷のような衝撃が社殿に走った。
帝の一行は、腰を抜かさんばかりに驚いた。
拝殿の中の者は、皆、震え、ひれ伏している。
どこからともなく、殿中に声が響いてきた。
人の体を通り抜け、渦巻くような声。
我と親しくしていると そなたは知らないのだろうが
海の白浪が絶えぬように
もう幾世も 我は 帝を祝福してきた
「神が、帝に現れた」
一同はおそれ、頭を床に垂れる。
やがて光はおさまった。
本殿は、何事もなかったかのように静まり返っている。
帝は静かに立ち上がったが、あっと言って、後ろに倒れ込んだ。
供の者が、あわてて抱き止める。
帝の眼は遠くを見つめ、体は硬直している。
「どうされました」
ほどなく、帝は我に返り、周りを見回してこう言った。
「鷹の姿が見えた」