井の中の蛙、大海を知っちゃう

文字数 2,000文字

ってことで、今日は学校内のパトロールをしよう!
どうしたんですか急に……。
この前宗くんと街を回ったけど、危機的な状況というものがなかったじゃない?
だから今日は、学校を探してみようと思うんだ!

灯台下暗しってこと!


学校で危機的状況なんてあったら、とっくに噂になってるでしょうに……。
(でも、宗ちゃんと学校の中を歩くの……楽しそうかも……)
今日は梓が委員会で、秋ちゃんもいないから……。
栞ん! 一緒に行こ!
え、えええ!?

どうして私と!?

宗くんとはこの前一緒に回ったから、今日は気分を変えて!

ほら! 早く行こうよ! ほらほら!

ちょ、ちょっと待っ……!

宗ちゃん! 宗ちゃーん!!

 そしてひなたは、強引に栞を連れ出していった。
あの押しが強い栞姉が押し負けるとは……。
(ひなた先輩、恐るべし……)
 ……と、宗介はふと気付いた。
……ん? 栞姉とひなた先輩が二人で回ったってことは……。
 宗介は、チラリと部屋の隅を見る。
私が、ソースケと一緒ということデスね~。
は、ははは……そうデスね~。
(わからん……距離感が、わからん……)
ソースケ~。
(ほぼほぼ初対面に等しいのに二人で回るって、なかなかキツイな……。会話にも困るし、そもそもどんな人なのかも……)
……遅ぇ。
え゛。
ではでは~。出発するでござるデ~ス。
 エリカはとっとと部室を出て行った。
(あれ……? 気のせいかな。なんかめちゃくちゃ流暢なイラつきが聞こえた気がするんだけど……)
 ともあれ、エリカと宗介は校内の探索に出発した……。
 ……と、思いきや。
この先が屋上ってことなんデスね~。
え、ええ、まあ。

でも屋上への出入口は基本的に鍵がかけられているから、行けないんですよ。

それって、これデスか~?
 エリカは、一本の鍵を宗介に見せびらかした。
ん? その鍵は……。
さあさあ、とっとと行くデ~ス。
 エリカは扉の鍵を開け、屋上へと出て行った。
えっ!? 本当に屋上の鍵!?

……ちょ、ちょっとエリカ先輩!

 屋上の周囲にはフェンスが設けられていたが、見る限り、しばらく人が来た形跡もない。

 扉には鍵がかけられているため当然ではあるが、それが一層、謎を深めることになった。

(え? なんで屋上の鍵をエリカ先輩が持ってるの? なんで?)
ソースケ、細かいことは気にしたらノンノン、デス。
え? 嘘でしょ?

今、僕の心を読みました?

それと~、ちょっと面倒デスから~……。
……話し方戻すわ。

ずっと続けてたら疲れるし。

急に普通!!
俺っていうイメージあるじゃん?

ハーフだし、いちおう留学生って設定なわけだし……。

思いっきり設定って言っちゃいましたね……。
(っていうか、一人称、俺なんだ……)
留学じゃなくて、数年海外で住んでて帰国しただけだしな。

実際は生まれも育ちもこっちだし。

そういう背景って、普通もっと後々わかるもんじゃありません?

ろくに話したこともないのにいきなりバラすってマジですか?

俺だって四六時中猫被ってたら疲れるだろうが。

こっちはイメージ守るのに必死だってのによ。

そんくらい気を使えっての。

速攻でぶっ壊しましたけどね、今。
 宗介は本題に入る。
それで?

どうしてまた僕にいきなり素を見せたんですか?

それこそせっかく守ってたイメージが台無しになるのに。

いやな?

見たところ、お前が一番仲良さそうだなぁって思ってな?

ちょっとキューピットになってくれないかなーって。

え? キューピット?

誰とのですか?

桐島ひなた。
急に爆弾ぶっこまないでください。

心臓止まるかと思いましたよ。

いやなぁ、もうぶっちゃけヤバいんだよ。

あのルックスに天真爛漫っぷりとか、超ドストライクっていうか……。

そ、それはまあわかるっちゃわかりますが……。
ってことで、俺に協力してくれ!

頼む! このとおりだ!

 エリカは宗介の手を強く握りしめた。
わ、わかりましたから!

ちょっと近いですって!

よっしゃサンキュー!

今日から俺とお前は五分の仲だ!

俺のことは呼び捨てでいいから。

あと、敬語もなしな。

そっちの方が俺も話しやすいし。

あ、うん……そこまで言うなら、遠慮なく……。
よし! これで桐島との結婚までのルートが見えて来たな!
そこまで?

見えすぎでは?

どうせ目指すなら、どでかい目標の方がいいだろ?
目標というか、壁の方がどでかいというか……。
ソースケ、お前何言って……。
……あ、そうか。

そういえば、まだ言ってなかったな。

え? 何を?
こう見えて俺にも色々と複雑な事情ってのがあるんだけどさ……。
俺、だから。
…………。
…………は?
まあ女子の制服だし、手続き上は女になってるけどな。

これ、俺とお前だけの秘密だからな。

誰にも言うなよ。

じゃあ、先に部室に戻ってるからな。

ソースケ、また後で!

 そして、エリカは屋上の階段を下りて行った。
 その後ろ姿を見た宗介は、深ーーーい息を吐き出した。
…………ふぅぅぅぅ。
(世界って……広いな)
 いっぱいいっぱいの宗介であった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山田宗介。栄優学園1年。

本作の主人公。

なんやかんやで地球防衛部に入部する。

ツッコミ担当であるものの、時折暴走することも。

密かに、地球外敵性侵略者のスパイを探すことに。

桐島ひなた。栄優学園2年。

地球防衛部の創設者にして部長。

天真爛漫という名のお花畑。

正義のヒーローを夢見る。

姫野梓。栄優学園3年。

地球防衛部の副部長。

全てを包む慈愛の心を持つ女神。

桐島ひなたの数少ない理解者にして親友。

宗介を地球防衛部へ引き込んだ元凶。

鈴沢栞。栄優学園2年。

山田宗介の隣同士に住む幼馴染というより姉のような存在。

超過保護。

実はめちゃくちゃ金持ちであるが、宗介は知らなかったりする。

柊木ルシル。年齢不詳。

鈴沢家に仕えるメイドさん。

割と常識人で、辛辣なツッコミが冴える。

鈴沢栞とは主従関係にあるものの、むしろ友達に近くファーストネームで呼び合う。


須藤秋良。栄優学園1年。

何かしら部活に所属しなければいけないらしく、幽霊部員として入部。

あまり心を開かない感じ。

しかしながら、どうやら秘密があるようです。

エリカ・ミュラー。栄優学園2年。

外国からの留学生。

半片言を駆使するが、実は日本語ペラペラとの噂も。

美人ではあるが、時折裏の顔がチラホラと。

冴橋響。栄優学園1年。

地球外敵性侵略者の捜索を宗介に依頼した人物。

世界的組織の一員らしいが、詳細は不明。

ついでに実年齢も不明。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色