うたげのあとに

文字数 953文字

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青年は、仕事を辞めていた。

「あんな場所で食べ残しに手をつけるんじゃない」
と上司から叱責されたことに納得がいかなかったのだ。

彼は語学が堪能だったこともあり、UNICEF=ユニセフ、United Nations Children's Fund、で働き始めた。

明日からは、貧困率が80%と高いアフリカの小国ザンビアの少数民族を訪問する予定だった。

この土地に安全な水を提供する作業を行う予定だった。


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シェフは、ホテルを辞めた。

自分が美味しい料理を提供すべき相手は、ホテルの利用者ではないと気付いたのだ。

彼は私財を投げ打って旅に出た。
調理器具を持って、世界中の飢えに苦しむ子供たちに料理をふるまう流浪の料理人だ。

この日は、貧困率が80%と高いアフリカの小国ザンビアの少数民族を訪問する予定だった。

ユニセフのおかげで、安全な水が提供されることになったこの場所に、美味しい料理を提供しに行くのだ。

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その日の夜。
少数民族たちは感謝の気持ちを込めて、2人の日本人を宴に招待した。

炎を囲み、人々は歌い、踊った。

そこには、先進国の遊宴のような煌びやかさも華やかさもない。

しかし、誰もが笑顔だった。

水の恵み、食べ物を食すことができることに感謝した。


同じ宴でも、青年にとっても、シェフにとっても、こちらの宴の方が性に合っているらしい。


宴の途中、二人の日本人は、会話を交わした。

「日本人同士が、アフリカの小国で顔を合わせるなんて奇遇ですね。」

「そうですよね、しかし、私はあなたと初めて会った気がしないのですよ。」

「どうしてですか?」

「先ほど食べた料理が、なぜか懐かしくて…
もしや、日本で料理を作っておられましたか?」

「ああ、実は…」

その瞬間、少数民族の長は、彼らの間に割って入った。
「しゃべるのは後にして、今は踊って歌え」というニュアンスのことを言っているようだ。


シェフはこう言った。
「そうだな、またあとで詳しく語ろうよ。」

青年は頷く。

そして、彼らは口を揃えて言った。

「うたげのあとで。」
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