第十九曲 挿入曲 テンポ・ディ・ヴァルス(眠れる森の、花輪の)(3) ★BGM付
文字数 1,978文字
ぼくにしてくれた話(第一の理由のほうだけね)を聞いて、クララがころっと納得し、「それあり得ないよ!」「だろ?」「だってその姫のおしゃれのお金、誰が払うの。国民だよね?」「そうそれ」「限度があるよ!」「それな!」とデジレとその場で意気投合し、あの二人、もともとナチュラル系というかフェアトレード系というか、方向性同じだから気が合うんだよ。そのあとはふつうに歓迎パーティに突入してしまいました。そうなるともう、ぼくをふくめてみんなの関心事はただ一つで、デジレがオーロラにどのタイミングで何を言うかという。だけど二人とも緊張してしまって、テーブルの端と端なんかに座ってしまって。だから「ねえ席替えしよ?」ってファニイが言い出したのは、そのあとの持っていきかたもふくめてさすがだと思いました。
「デジレ、ドイツ語うまくなったねー」
「がんばったから」
「なんで?」行け、ファニイ。
「いや、学位とらなきゃだから」そっちへ話をずらすなー。デジレ、まわりの男子にもめちゃくちゃ小突かれています。
「いまどこに泊まってるの」
「大使館だけど、今夜からペーチャのとこ」
「ペーチャのとこって王宮じゃん」「いいないいな」「よかったら今度みんなで来て」「え、いいの?」「本気にしちゃだめだよ」「ううん、本気」「うそ?!」
「ずうずうしいの承知で」とヨーゼフ。「泊めてなんて言わないから、練習とか本番とか、敷地内のどこかにぼくらが行かせてもらえるような場所ない? ペーチャ、いちいち外に出るの大変でしょう」
「そうだね」言ってから、ぼくはきゅうに立ちあがりそうになりました。そうだ、それだ。どうしていままで考えつかなかったんだろう。みんなが来てくれるなんて思いもしなかったんだ。「それ、考えてみる」
「そういうふうに使えるなら、お金持ってるのも悪くないね」デジレの表情はすがすがしいものでした。
「デジレきゅうにお金なくなって大丈夫かな。慣れられるかな」バスティアンがみんなの不安を代表してくれました。ありがとう、バスティアン。たまにはいいとこあるじゃない。
「たぶん大丈夫。だめだったらペーチャにかたる。じゃない、たかる」
「どこでそんな言葉おぼえたのこの子は」
「だから、その……」きゅうにうつむいて、「贅沢はさせてあげられないと思うけど」
「え?」
「ぼくといっしょになる人」
みんなが歓声をあげました。
「オーロラ、ちょっといいか。いまからすごいひどく——だめだ噛んだ——
オーロラは、デジレに話しかけられた時点で、もう泣きはじめていました。たぶん彼から話しかけられたのは初めてだったんじゃないかな。
「一つだけ。前から気になって気になって、ずっといらいらしてたんだ。これが言いたくてぼくはドイツ語猛勉強したよ。きみの服。頼むからとうぶんぼくに選ばせてくれないか。きみのはファッションじゃない。カムフラージュだ。テントウムシがド派手な色で『食べたら苦いぜ』と鳥を
じっさいにはデジレは、翌年の冬にはもういませんでした。残り二年の過程を九ヶ月で修了してしまって、地方の小さな教会へ赴任していったのです、もちろんオーロラを連れて。そしてその直後にはベビーが、男の子と女の子のふたご。どこまで飛び級なの?! 「だって夜が長すぎて寒すぎた」って、なにそれ?? でもそれはまだ先の話です。
★BGM:『眠れる森の美女』より「花輪のワルツ」
https://www.youtube.com/watch?v=_QbX-a320fc
おまけ。イメージ画像。もしもデジレとオーロラが10年前に出会っていたら(*^^*)
(NHK『ヒューマニエンス』特集「目」の回より。スクショでごめんなさい!)