epilogue jinx (7)

文字数 512文字

 狭い館内の廊下で急に叫ぶものだから、廊下に声が反響する。

「どうかされましたかな?」

 滝川さんも驚いて振り返ってる。

「あ、あの!滝川一颯さんじゃないですか!?大阪五輪の男子1500mの銀メダリストの!?」

 珍しく陸くんが目上の人に敬語を使っている。

「よくご存知ですな。古い話ですよ」

「有名な人なの?」

「バカ!おまえ、『日本の中距離界の神様』って言われてる人だぞ!」

「か、神様……」

 拝んだ方がいいのかな。

「前の大阪五輪で日本の中距離界に初めてメダルをもたらした人だよ。それも準決勝で足のマメを潰してなければ、金も確実って言われてたんだ」

 陸くんがえらく興奮して饒舌にしゃべっている。こんな陸くん初めて見る。

「あ、あの俺、子供の頃、滝川さんのオリンピックの映像を見て、それに憧れて陸上の世界に入ったんです。あ、握手してもらえませんか!?」

「これは光栄ですな。喜んで」

 滝川さんは優しい表情で手を差し出し、陸くんとぎゅっと握手をした。

 その時の陸くんの喜びようったら。誰もいないとは言え、走り回って叫びまわるし、手は一生洗わないとか言ってるし。もう子供だ。

 滝川さんはそれから、鑑賞にベストなポジションの座席まで案内してくれた。

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